第47話 果てに、声が笑う。


 キョトンとするシルフィ。

 そこで、カプラの拳が放たれる。


 スライムの霧が晴れ、俺達を見つけた様だ。

 それもキスしている俺達を。

だから、当然の展開。

必殺のカットイン。



「へぶっ……」



 俺に向かって、拳がヒット。

 続けて、3発。

すかさず、機械音声。



【被ダメージ9】



 カプラのパンチを受けるのは、これで2度目。

 泣いていた時のポカポカパンチが1度目。



 ――『フレンドリーファイアかよ……』



 あの時よりも、ダメージ量が増えている。

 これが“力強さSTR”の差か。


 カプラは強くなっている。

 これから、どんどん強くなっていく。

俺を越えるくらいに強くなるか。


 というか、俺は殺されるかもしれない。

 今、ここで。



「何やってんの、ゆうッ! この浮気者」



 返す言葉もない。

 俺は最低だ。


 カプラに両肩をガシッと掴まれる。

 ブンブン振られる。



「さっき私とキスしたじゃない! なのに、日が変わらない内に、別の女となんてっ! 何やってんだッ、スケコマシ!」



 放心状態の俺をカプラが揺さぶる。

 俺だって分からないのだ。

自分が何をしているのか。


 というか、何が起こった。

 俺は、転生前まで童貞だった男だ。

それが美少女と続けざまにキスしている。


 まるでチャラチャラした、パリピのナンパ男。

 そんな感じの愚行である。



「おい、テメエ……やめろっ!」



 シルフィがカプラを手で押す。

 俺から引き離そうとする。

けれど、そんな力は彼女に無い。


 カプラの左肩を掴んだまま、何も出来ずに静止する。



「何よ……」



 カプラとシルフィ。

 両者の目線が交差。

火花が飛び散った……気がした。



「……えっと……落ち着け?」

「何、その変な敬語! というか、落ち着けって?」



 カプラもシルフィの肩を掴む。



「他ならない、あんたが!? それ言うッ?!」

「……これには訳があるのですわ」

「訳?! どんな訳があるってのよ!」

「それは……お前に関係あるかよ」

「はぁ!?」



 シルフィは俺とカプラのキスを知らない。

 あの告白も知らない。

だから、状況が悪化していく。



「この“貧乳”の“ガキんちょ”が!」

「あぁ? 今何つった、おい」

「言葉通り……よッ!」



 息を少し切らしながらも。

 カプラは台詞を言い切る。

口火を見事に切り落とす。


 キャットファイト。

 美少女同士の喧嘩が始まろうとしている。


 その周りには戦闘の跡。

 おまけに死体だらけ。

どう考えても、今やるべき事ではない。



「2人とも、一旦座って……」



 喧嘩の原因。

 その俺が止めに入る。

結果、美少女2人から睨まれる。

気が遠くなる。



【バッドステータス:出血過多による効果、意識朦朧】



 そうか。

 戦士の攻撃を受けた時、俺は足に傷を負った。

その傷が思ったよりも深かった。

今の今まで、血が流れ続けていた。



【バッドステータス:疲労による効果、意識――】



 バッドステータスまみれだ。

 だから、倒れるのも当然。



「え」

「あ」



 視界が暗転する。

 カプラたちの声が遠くで聞こえる。

けれど、何を言っているか、分からない。

聞こえない。



【バッドステータス:脳揺、回復……】



 機械音声だけがハッキリと聞こえた。

 今さらに、しつこい奴が消えたらしい。

バッドステータスは、他にまだあるけれど。


 そして、さらにまた、しつこい奴が一人。



【大変だなぁ、モテ男は】



 今度は、女の声が聞こえる。

 機械からではない、肉声。

カプラでもシルフィでもない声色。

邪悪な響きを持つ美声。



【“必要な手順”とはいえ、クズだよなぁ】



 その美声が笑う。

 俺を嘲笑う。



【本当に大変だ。骨が折れる蛮行で厄介だよ】



 闇の中で、含み笑いをする女が見える。

 俺は、その顔を見つめる。


 輝く様で吸い込まれる様な、金色の瞳。

 短く切られた、白い髪。

その髪を掻き分け、左右から生えている、黒い角。


 目鼻立ちが整った、恐ろしい程に綺麗な顔。

 まるで彫刻のような、人工物のような笑顔。



【まあ、お前は考えて、どうにか解決するんだろ。オレを殺した時の様に】


 

 スラッと背の高い美女。

 そいつは細い腰を曲げ、俺の顔を見る。



【しかしな、覚えておけよ】



 その瞳が近寄る。

 遠のく意識の中で。



【いくら思案しようと、救えない者はいる】


 


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