第46話 唸れ、拳。



「“愛おしい娘”……って」



 "言語変換"スキルの暴走。

 誤爆。翻訳ミス。



「うがっ……!」



 その後、俺はすぐに地面を転がった。

 足の傷のせいか、こけた。

情けない無様を晒した。



「あ、おい……」



 女司祭がハッとする。

 それから、助け起こす。

肩を抱いて、見つめながら。


 何だ、これ。

 何だ、この雰囲気は。

もじもじする女司祭。



「何というか……その」



 俺は違和感と共に、起こされる。

 今、“言語変換”のスキルがした様な気が……


 とんでもない“翻訳ミス”が起こった気がする。

 “愛らしい娘”が、“愛おしい娘”に……?



「意外と……情熱的なんだな、お前って」

「……はい?」

「初対面だけど……しびれた」



 一度、瞬きする。

 そして、声色を変える女司祭。



「シルフィ。シルフィ・グライア」

「え」



 突然の自己紹介。


 俺は、まともな言葉を出せない。

 状況が飲み込めない。



「わたくしの名前、知りたがってたでしょう」



 本当におかしな雰囲気だ。

 それだけは分かる。

スライムの霧の中、笑うシルフィ。



「な、少年さま?」



 赤い目を細めるシルフィ。

 ちょっと、顔が赤い。



「……わたくしの王子様……ってな」



 シルフィが近づいてくる。

 待て。展開が速すぎる。

第一、俺にはカプラがいる。



「おい……待て!」

「んー、待たない」



 俺は、必死に抵抗しようとする。

 両腕でシルフィを止めようとする。

なのに、上手く腕が動かない。

斧を脇腹に受けたせいか。


 それを知ってか、知らずか。

 間近で、シルフィはクスッと笑った。



「お前なら勝てるかもね。アイツに」



 俺は言葉を返そうとする。

 けれども、封じられる。



「は、どういう……」



 黙れ――とばかりに。

 甘い匂いが纏わりつく。

カプラとは違う、惑わせる様な匂い。

それが覆い被さった。


 俺はシルフィと口付けキスを交わした。

 というか、強制的に奪われた。



「……あれ? 力は……?」



 何が“あれ?”なのか。

 ともかく、キョトンとするシルフィ。


 その後頭部に向かって……だ。

 カプラの拳が放たれた。



【Eスキル:付与、第1条件をクリア】

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