第43話 司祭。子豚。魔女殺し。


「うぉおおおおおああああっ!」



 その叫び声と共に、金色の塊が飛び出てきた。

 荷台の奥に隠れていた何か。

それが飛びついてきた。緩い力で。



「ちょっ! 夕から……離れなさいっ!」

「嫌だ……嫌ですわ!」



 金色の塊。

 それは女の子だ。

それもとびっきりの美少女だ。


 複雑に編まれた金色の長い髪を振り乱す。

 真っ赤な瞳を燃やして、こちらを睨みつける。

背はカプラと同じくらいに小さく、俺よりは大きい。

慎ましやかに小さな胸を持つ。スレンダー美少女。



「この腐れ外道の敵がッ……許しませんっ!」



 金色の刺繍で縁取りされた黒いローブを羽織り、その下に銀色の幾何学模様が真ん中にいくつも連ねて刺繍された白いワンピースのようなモノを着ている。

 そのヒラヒラの白い服を束ねる様に、腰には茶色い皮製のベルトを巻いている。

その細い首には、色とりどりの宝石が付いた、銀製の大きな首飾りネックレスを3つほど掛けている。


 何か宗教的な服装をしている。

 どこか“祭司シスター”を思わせる美少女だ。



「離れなさいったら!」



 カプラが女祭司を俺から引き剥がす。

 案外、すんなりと剥がされる。

女祭司が非力なのか、カプラの力が強すぎるのか。


 ともかく、女祭司は地面に転がった。



「いやいや、落ち着けって」

「っ……落ち着け? この状況で落ち着いていられますかっ!」



 俺は背後の惨状を見て、下唇をすぼめる。

 破壊された荷馬車、壊滅したパーティの死体、その傍らには怪物の残骸。

確かに、落ち着いていられる状況ではない。


 女司祭も背後を見て、それから息を吸った。



「……よくも皆様を! パーティの皆様をッ!」

「パーティの皆様……」



 俺は、またパーティの死体に目をやる。



「……君、この壊滅パーティのメンバーか?」

「違いますわっ!」



 さらに息を吸う、女司祭。



「この方達はわたくしを助けようとしてくれた! 心優しきレムナーヤ帝国ギルドの英傑、ウカノミダの冒険者様ですのよ……それをッ!」



 すらすらと長セリフ。

 その後、女祭司が殴り掛かろうと走る。


 カプラが、すかさず俺の前に入る。

 けれど、女祭司はヘロヘロと地面に突っ伏した。

体力が無さすぎる。



「このクソボケ子豚野郎さんめ!」



 妙な罵倒。

 汚い言葉なのか、可愛く罵っているだけなのか。

中途半端な罵倒だ。

“言語変換”の翻訳ミスだろうか。


 疑問を抱きながら、俺は小さな女祭司を見つめる。

 それから、壊れた荷馬車を見つめる。


 荷馬車に積んでいた積み荷。

 それがこの女祭司なのだろう。

そして、彼女は杖を持っていない。


 彼女は回復役ヒーラーではない。

 少なくとも、杖の跡を残した冒険者とは別人だ。



 ――『戦士アタッカー1、盾役タンク1、魔法使いメイジ1……回復役ヒーラー1』



 土の上、荷馬車の轍と一緒にあった跡。

 そこにあった跡は4人分。

この“野営地”にあった死体は2人分。

操られていた死体を合わせると4人。


 死体の数は合っている。

 けれど、回復役の死体が無い。

それらしき死体が無い。


 ならば、回復役は生きているのか……?



「君、名前は……?」

小汚こぎたねぇ敵さんに、名乗るような名前はありません」

「あのね……勘違いしてるわよ、あなた」



 カプラが腕を組んで、女祭司を見下ろす。

 俺はその横に立って、彼女の言葉の続きを言う。



「君の仲間を殺したのは俺達じゃない」

「ふぇ」

「俺達は……俺は敵じゃないんだ」



 カプラから変な視線を感じる。

 何だよ。何もおかしな事は言っていない。

言うとしても、これからだ。



「俺は、魔女を殺しに来たんだから」




 


 


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