第44話 惨劇の始末。それは、これから。


「俺は、魔女を殺しに来たんだから」



 この台詞に、女祭司は静かに息を呑む。

 対して、カプラは大きく声を上げた。

少し、息が切れかけながらも。



「……そうだったの!?」

「あぁ、今そうなった」

「今決めた……のね!?」



 カプラは、いちいち反応がデカい。

 対して、女祭司は左手で口元を覆う。

この金髪少女は、さっきから小さな反応をする。

驚いているという風には見えない。


 まぁ、人によって感情の表し方は違う。

 一概には言えないか。



「テメ……あなた様方は、敵じゃないのですか?」

「そうだよ」

「さっきから、そう言ってるんだけどね……」

「はぁ……」



 女司祭はまだ不安げだ。

 ここは、この美少女を安心させるべきか。



「だからさ、君の名前を教えてよ」



 カプラが俺を睨む。

 それから呟く。



「……何か口説いてるみたい」

「え、何? 俺、何か変な事言った?」

「別に……まぁ、そんな状況じゃないわよね」



 カプラの眼光がキツい。

 俺は彼女から顔を背けた。


 さっきの死闘や感情の浮き沈みのせいか。

 カプラは不安定だ。

彼女は、当たりが強くなっている。

疲れているせいかもしれない。


 俺もヘロヘロである。

 “脳震盪”がまだ抜けきっていないのかもしれない。


 そんな俺の手首を、女司祭が掴む。

 縋るような仕草。



「では、わたくしを助けようとしてくれていた方達は……」

「壊滅したパーティの連中か。こいつらを殺したのは多分……」



 俺は周りを見渡す。

 焚き火の周りの死体二つ、顔の潰れた女魔法使いの死体、半人半牛の死体。

空き地の岩の上には、茶色い足跡が“無数”にある。


 死んで操られたパーティの冒険者。

 俺と殺し合った戦士、それに女魔法使い。

彼らは手強い敵だった。相当な手練れだった。


 それを殺し切った敵は、相当な猛者だ。

 ラスボス級の強さを持った強敵だ。


 そんな強さを持つ敵は多分、一人だけ。

 この森の主だけ。



「魔女だ。魔女が君の仲間を殺した」



 魔女はカプラの兄をさらった。

 彼女の話を聞く限り、そういう事だと思う。


 その上、パーティを一つ壊滅させた。

 その死体を操って彷徨わせた。


 こんな野営地を守る必要なんて無い。

 それなのに、洗脳魔法で使者を操った。

デコイの亡霊を作り上げた。


 きっと魔女ヤツは遊び半分でやったのだ。


 悪逆非道。

 許してはおけない。

それにどの道、対峙する必要がある。



「だから、魔女を殺す事にした。今決めた」

「まったく……いつも急なんだから」



 カプラはそう言って口を尖らせる。



「……そうか?」

「そうよ。まぁ、嫌いじゃないけどね」



 カプラの長耳の先が赤い。

 フサフサの毛の間から、バッチリ見えるほどに。

俺はそれを指摘しようとする。

カプラは先読みして、耳を手で覆った。



「さっきのも、ね」



 忙しいヤツだ。照れ方も急である。

 こういう事に慣れていないのかもしれない。

まあ、告白も"さっき"だし。


 置いてきぼりの女司祭は頭を傾げる。

 こっちの美少女は、分かっていない。

そういう雰囲気とか、俺たちの関係性とか。


 まあ、"さっきの"――なんて言われても分かるのは俺たちだけだろう。

 女司祭は、あの時は荷馬車の中にいたのだ。

あの告白は、聞こえていないはずだ。



「あの……」



 だからか、会話の流れをぶった切って来た。

 女司祭が会話に割って入る。



「……そんな事、出来るのですか」

「ん?」

「“魔女”をブッ殺す……なんて事」



 名前も知らない司祭の美少女。

 突如、乱れた言葉遣い。

それに向き直り、気付く。



「……ッ!」



 背後に迫る影。

 死んだはずの戦士。

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