第41話 バッド・ステータス。


「痛かったんだけど……――さあッ!」



 大木。

 それが怪物の顔を砕く。

カプラが大木の幹を持ち、根から引き抜いた。

それをミノタウロスの顔面にブチ当てた。


 驚きだ。カプラにそんな芸当が出来たなんて。

 いや、違うか。

これも――



「そうか。これも――“数値変換”の効果か」



 さっきカプラは“数値変換”を使った。

 その時の彼女の被ダメージは99。

それを変換して、彼女が得たMPは80。

明らかな“誤差”がある。

ダメージと得たMPに差がある。


 残ったダメージの数値分、何かを得ていなければおかしい。

 何かの数値を得ていなければならない。

カプラは、何かのステータスを得たはずだ。


 さっき途切れた機械音声。

 その続きを、自分で補足してみる。

自分の推測では、こう言ったはず。



 ――【スキル効果2によりSTRを19加算】



 力の強さ。STR。Strength。

 RPGにおいて一般的なステータス値の一つ。

この値が高いほどに、強い力を発揮できる。

大木を片手でぶん回すほどの強い力を。


 カプラは、被ダメージを“力強さ”に変換した。

 俺には出来ない発想だ。


 MPとHP以外のステータス値は動かない。

 自分では動かせない。

そう思い込んでいた。

けれど、カプラはそれをやってみせた。


 それだけじゃない。



【バッドステータス:脳揺による効果】



 また機械音声。

 直後、ケンタウロスが倒れる。

さっき、俺がやられたのと同じ症状。



「脳震盪――ッ」



 俺はハッとする。身の毛がよだつ感覚。

 分かったのだ。

カプラがやろうとしている戦術が。


 それは、俺を殺そうとした戦術だ。

 さっき、敵が使おうとした戦術だ。

敵は棍棒で俺の頭を殴った。

そうやって、バッドステータスを付与した。

そこから――



「覚悟しな。これからのあんた――」



 カプラがミノタウロスの上に乗る。

 胸板の上で、凍ったスライムを振り上げる。

そして、次の“一連”を準備する。


 敵は今、脳震盪のバッドステータス状態。

 そのバッドステータスを利用する。

そこからの“ハメ殺し”だ。



「死ぬほど痛いよ」



 それから、カプラはスライムを振り下ろす。

 飛び散る赤。

頭部を殴られ、ミノタウロスが身をよじる。

人間の様に苦悶の表情を浮かべる。



「ゥ……ア……」



 一瞬、カプラが目を見開く。

 それから叫んだ。

何かを振り払うように。



「あああああああああああああッ!」



 それから振り下ろす。スライムで殴り続ける。

 手に赤黒いモノがこびり付き、敵の顔が赤黒い塊になるまで。

ずっと殴り続けた。

歯を剥き、獣のように唸りながら。



「痛い……痛いッ!」



 うわ言のように唸る。

 自分の痛みなのか、敵の痛みなのか。

誰の痛みを口にしているのか、分かっていない。

そんな目をしている。



【対象のHP0】



 俺は飛びつく。

 よろけながらも、彼女を止めた。



「もう逃げないんだ……――私が守るんだからッ! 愛している物! 大事な物ッ!」



 尚も殴ろうとするカプラ。

 必死すぎる彼女。

死の恐怖とアドレナリン、それに殺意。

気が狂うほどの猛烈な体験。プレッシャー。



「私が守り切るからッ!」



 それに身を焼かれる。


 

「あはッ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

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