第40話 反撃。


「私は勇者だ」



 カプラの宣言。

 怯み、迷い、辿り着いた答え。

彼女は名実ともに、勇者になろうとしている。


 そんな彼女を襲う――棍棒の一撃。

 ミノタウロスの攻撃。

赤が飛び散る。



【Eスキル発動――数値変換メタトロフィス



 カプラが棍棒を受け止めた。

 右手から少し血を垂らして、それでも止めた。



「マジかよ……」



 俺は息を呑む。


 彼女の右手の周りに、白い障壁。

 白い膜を、彼女は右手に纏っている。

その膜がダメージを変える。

そのダメージを別の数値に変える。



【被ダメージ99】



 カプラは防御力が低い。

 俺に比べれば、紙装甲と言っていい。

それに右肩に傷がある。

その傷の相乗効果があるかもしれない。



【残りHPライフ1】



 ダメだ。

 カプラだとダメージを受けすぎる。

数値変換メタトロフィス”のスキルはダメージを完全に無効化しない。

ダメージと同じ分だけ、別の数値を増やすだけ。

少しは軽減しているかもしれないが。


 このままじゃ、カプラに勝ち目は――



【スキル効果1により純MP加算、残りMP 80】



 ミノタウロスがカプラから距離を取る。

 ひとっ飛びに、助走の為の距離を取る。


 コイツは、自分の加速能力を武器にする気だ。

 自分の速さを使って、攻撃を放つ戦法だ。

速さのエネルギーを乗せて、棍棒を振るつもり。


 その攻撃にミスっても、ヤツの周りにはスライムがいる。

 回復役があんなにも沢山いる。

HP無限と言ってもいい状況。


 あまりに、敵が有利だ。

 だから――カプラが勝つ。



「来なよ」



 カプラは、HPが1しか残っていない。

 そんな状況での挑発。

正気の沙汰ではない。

彼女は不敵に笑っていた。


 ミノタウロスは不満げに鼻息を噴く。

 それから、突進した。



「……ッ!」



 通常の突進。

 超加速を使わずに、ただ突進。

回復役がついて来られる速度で――突進。


 ミノタウロスはスライムを連れて攻撃に望んだ。

 沢山のスライム。それを纏っていた。

回復を近くに置いた状態での攻撃。


 安全策を取ったのだ。

 カプラの笑みを警戒した。

切り札があるかもしれないと――警戒した。


 敵は、張り合いチキンレースに――負けたのだ。



「馬鹿ね。この、この――ッ!」



 カプラが左手を掲げる。



「【Aスキル:月冷華ハネヴマ、発動】」



 凍り付く――スライム。

 スライムが彼女のスキルで凍った。



 ――『あのスキルは十分な水が無いと使えない』



 カプラの過去の発言を思い出す。

 それから分かる。

あの発言の中の水とは、水分の事だ。


 そして多分――スライムは“水分の塊”だ。



「ウガッ……?」

 


 その瞬間、ミノタウロスは動きを封じられた。

 自分が連れていたスライムのせいで。

足の周りで、スライムが凍ったせいで、動けなくなった。


 ごとり――と棍棒が落ちる。

 ミノタウロスが焦って落としたのか。

落とした棒を思わず、目線で追う怪物。



【スキル効果2により――】



 何度目かの機械音声。

 それにカプラの大声が被る。

機械音声が何を言ったか、その続きを覆う。



「ねえ! さっきは――」



 カプラの大声に、怪物が顔を上げる。

 その顔面に何かが降る。



「痛かったんだけど……――さあッ!」



 大木。

 それが怪物の顔を砕いた。

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