第38話 君だけが本物だ。


【誰の声が良かったんだ?】



 これは機械音声――いや、違う。

 明らかに女の肉声だ。

しかし、分からない。


 今、俺の脳内で響く、この声は何だ。

 この声は、俺に何を聞いている。



【誰の声でいて欲しかったんだ】



 誰かの肉声。

 揺らぐ視界。

目の前に“女”が立っている。

これは幻覚か。幻聴か。



【“お前”は、誰が好きなんだ?】



 俺は結局見ているだけで。

 遂に、幻覚まで作り上げた。

俺自身で。


 その幻覚は白い髪を振り、黒い角を触る。

 それから言う。



【今のお前は何者だ――?】



 金色の瞳が俺を見る。

 カプラと同じ色の瞳。

ドラゴンと同じ色の瞳。


 彼女の瞳が問い正す。

 転生前と転生後。

どちらの俺が本物なのか。



「俺は……――」



 転生前の告白。

 あれが“友人ちゃん”の声だったなら――と思った。


 何故だろうか。

 転生してから思い出すのは、いつも友人だった。

マドンナちゃんではなく、いつも傍にいた友人。



 ――『君の正体は、“常夜とこよ覇者はしゃ”だと思っていたけど』



 けれど、彼女が好きだったのは違う。

 きっと俺自身ではない。

覇者としての俺だ。

どこまで行っても、彼女とは“仲間”の関係だった。



 ――『優しい人よね、あなたって』



 転生後に会ったカプラ。

 俺は、ずっと彼女を救っていると思っていた。

けれど、実際は、彼女に救われていた。


 一緒に戦って、話して。

 いつしか彼女に目を奪われた。

カプラはよく泣いて、よく怒る。

見ていると楽しい。一緒にいると楽しい。


 彼女の存在は、きっと――

 俺にとっての唯一無二だ。



「俺は――っ!」



 本当に、身勝手な選択だと思う。

 想いが止まらず、冷静でもない。

けれど俺は――選ぶのだ。



「俺は――笑ったり、怒ったり、戦ったりしたいんだ。これからも――」



 しっかりと平等に選択する。

 “彼女”も、それを望んでいるはずだから。



「これからも、“君”と一緒に生きたい」



 戻ってくる視界。

 その中心には、彼女がいた。

白銀の髪が垂れて、他は見えない。


 瞬間、彼女カプラだけが俺の世界にいた。



「カプラ――君が好きだ」



 カプラは優しく微笑む。

 涙を貯め、俺を抱きしめる。

こんな訳がない。あり得ない。


 あぁ――これもきっと幻想だ。



「君を愛している」



 彼女は小さく頷く。



「私も――私も、だよ」



 そして、迫る美少女。

 花の匂いが迫る。

彼女に飲み込まれる。

もう鬱陶しくは感じない。



「私も――あなたを愛してる。ユウ



 カプラの言葉が――俺を現実に引き上げる。

 それも悪くない。

俺達は息を重ねた。再び。

そして、ふわりと風。



「私も、あなたを守りたい」



 この口付けキスだけが本物だ。



【……Eスキル:付与、発動】

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