第36話 瞳。


 魔法使いが目の前に迫る。

 ほぼ全てが剥がれた顔、白い骨の見える腕、ボロボロに穴の空いたマント。

彼女は骸と同じだった。


 その左手には、青い宝石の付いた大きな杖。

 その右手には、ダガーナイフ。

それを見て、俺は両足を突き出した。



「ッ……!」



 敵のスキルで引き寄せられた俺。その首。

 その首スレスレをナイフが突く。

俺は両足で魔法使いを蹴り、突き攻撃からの距離を取った。


 この敵は何だ。

 さっきから雷撃を撃ったり、スキルを連続使用している。

消費魔力はどうなっているんだ?

どこから調達している?



「……お……おとな……」



 ほぼ骸骨の口が開く。

 女の声……人だったモノの音がする。

むごい真似をするな。



「おとなし……く」



 この女魔法使いのパーティは壊滅した。

 その時点で、それ以上の事を仕掛ける必要は無い。

だが、そのパーティを襲った“敵”はこいつらを洗脳した。


 殺さずに、洗脳したままとした。

 俺は横に地面を転がる。

焚火の近くへと行く。


 炎を囲むは死体。

 その一つは、盾を背負ったまま死んでいた。



「そうだ。大人しくしていろ――」



 倒れた死体の盾を取る。

 その防具を――手に取る。

これを武器として使うのは、俺くらいだ。

だから、警戒もされていない。


 俺と長剣の距離を遠くして。

 今の俺に、使える武器はないと考えている。

敵の魔法使いは、そう考える。


 洗脳後の思考なんて、そんなものだ。



「今、楽にする」



 俺は盾を持つ。

 前に構えるのではなく、横に抱える。



「ああぁうぅうぁああああッ――!」



 獣の吠え声。

 もはや人間とも見えないそれ。

その女魔法使いが杖を掲げる。



【スキル発動を検知、手繰コレース



 俺は引き寄せられる。

 それに対し、両足を引きずって抵抗。

反応して、女魔法使いが更に杖を掲げる。


 杖の青い宝石が輝く。



「ッ……はッ……」



 その後――一瞬、俺は足を離す。

 持っていた盾を地面に投げる。


 その盾に乗る。



「ははッ……サーフィンだ――そしてッ!」



 傾斜した地面を盾に乗り……滑走。

 女魔法使いの引力を利用して……爆走。

地面を滑り降りて、さらに加速。

岩の上、火花が出るほどの超速。


 命の危険を感じる速度まで……超加速。



「――今ッ!」



 俺は盾から跳び上がる。

 超速度のまま、射出される。

その速度のまま、顔面に蹴りを入れる。


 女魔法使いの頭蓋骨を蹴り潰す。


 そうだ。

 武器が無いのなら――



「“俺自身”が武器になる――ってなッ!」



 女魔法使いが飛ぶ。

 俺と一緒に飛んで――

後ろの木まで蹴り飛ばされた。


 そのまま、飛んできた俺に挟まれる。

 俺は両足を突き出して、女魔法使いの顔面を蹴った。

加速の付いた蹴りで木に押し付け――蹴り潰した。


 彼女のスキル“手繰”が生み出した――速度。

 それを武器にして。



「ざまあみろ」



 しかし、それは終わりではない。

 この戦いの終わりではない。


 風が吹き付け――俺はその瞳を見た。






 

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