第35話 痺れる勝利。


【Eスキル:引力ヴァリタス、発動】



 長剣が飛ぶ。

 閃光が飛ぶ。

青い閃光――正体は雷撃。

そのタイミングは同時。



「来い、来い、来い――ッ!」



 雷撃は、戦士のいる位置を外して放たれた。

 当然だ。

フレンドリーファイアを警戒したのだ。


 それで、さっき俺の声がした方向へと撃った。

 反射的に撃ったのだ。

設置された、俺の蜃気楼を狙って――雷撃を撃った。


 だが、長剣が雷撃を引き寄せた。

 その金属が雷の電気を引き寄せた。


 引力に引き寄せられ、飛ぶ長剣。

 それは宙で、雷撃の電気を帯びた。



「あがっ……?」



 そして、長剣が戦士に刺さる。



「狙い通りッ」



 “引力”は、武器を利き手の方向に引き寄せる。

 その力を利用すれば、武器を狙って飛ばせる。

利き手を掲げれば、その方向に飛ぶのだ。


 雷撃を帯びた長剣。

 それが飛んで、刃が突き刺さる。

俺は、すぐに戦士から手を離す。

直後――



「あががががががががッ――!?」



 戦士に、雷撃が当たった。

 味方の雷撃が。

避雷針の如く、俺の剣に引き寄せられて。


 感電した。

 魚の様に痙攣し、戦士が倒れる。


 あのコーンという金属音。

 あれは、雷撃のタイミングを知らせる合図だ。

それに、俺達に敵の存在を知らせる合図。


 カプラがさっき、そう説明してくれた。



 ――「相手に自分を見せる……ううん、知らせる必要があるの」



 そうしないと、攻撃系の詠唱スキルはダメだ。

 効果が十分にならない。

全くクソ仕様だ。

だが、ありがたい。


 あの金属音のお陰で、敵の位置に見当がついた。

 おおよそだが、それで十分だ。

敵は遠くの開けた場所にいる。



「……うぅん」



 カプラのうめき声。

 それから、起き上がる彼女。



「だいじょう……ぶ?」



 第一声でこちらの心配。

 実に、彼女らしい。

俺は声を潜めて、声を掛ける。



「そっちこそ大丈夫かよ」

「うぅ……平気よ。これくらい」

「そうは見えないな」



 カプラの右肩の傷。

 その深さは、それほどではない。

致命的というほどではない。

けれど、血が止まらず出ている。


 このままだと失血死する。



「応急処置が必要だぞ」

「そんな時間があるの?」

「ここから逃げれば、いくらでも」



 その時、コーン――と。

 金属音が聞こえた。



「何……ッ!?」



 続けて、機械音声。



【スキル発動を検知、手繰コレーサ



 カプラの顔が見えなくなる。

 突然、俺は引き寄せられた。

俺自身が強烈な力で――敵の位置へと。


 俺自身プレイヤーに対しての引き寄せ。

 “引力ヴァリタス”と似た性能のスキル。

いや、ほぼ同種と言っていいスキル――手繰コレーサ


 これはマズイ。

 今の俺は、武器を持っていない。

 


引力ヴァリタス冷却時間クールタイム、残り6秒】



 俺は飛びながらに、確認する。

 敵の術中に嵌められた事を。



 ――【――射程外アウト・レンジ。対象に近づいて下さい】



 スキルには、きっと射程距離がある。

 “引力”の場合、引き寄せる対象の武器との距離がそれだ。

武器対象との距離が遠いと、発動しない。


 敵の魔法使いの狙いは、正しくそれだ。

 俺と武器――長剣の距離を離すつもりだ。

そして、自分の近くに引き寄せて――殺すつもり。



「く……ッ!」



 藪を飛び抜け、俺は開けた地に出る。

 木々の隙間の空き地。

少し斜めに傾斜けいしゃした空き地。


 その中心地の岩の上。

 螺旋が描かれた大きな平たい岩の上。

その上に、焚火の跡。

その火を囲むように、死体が2つ横たわっていた。


 その後ろには、破壊された荷車。

 荷台には布が被され、積荷は見えない。

 


「これは……襲撃された跡――ッ」



 壊滅したパーティの跡。

 そのパーティの一人。

もはや骸と化した、洗脳済みの一人。


 その魔法使いが目の前に迫る。

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