第34話 閃光。


【スキル発動を検知――引力ヴァリタス



 引力。“引力”のスキルだと。

 それも俺が持っているスキルと同じ。

この戦士、いくつスキルを持っているんだ。


 驚く俺の背後で斧が舞う。

 引き寄せられた斧。

それが後頭部に迫る。



「……畜生がッ!」



 俺は戦士を突き飛ばした。

 そうする事で斧を避ける。

敵を殺す千載一遇のチャンスだった。

だが、仕方ない。


 俺はそのまま地面を転がる。距離を取る。

 その間に、戦士は斧を手にする。


 ならば、こっちも――



【Eスキル発動:引力ヴァリタス



 俺もスキルで剣を引き寄せる。

 それでどうする。

これでどうなる?


 戦況は再び前と同じに戻った。

 俺と敵、双方が武器を手に取った。

カプラは倒れたままだ。


 これは正真正銘の絶体絶命だ。



【Eスキル発動:蜃気楼パンタズマ



 俺は一応に幻影をセットする。

 俺の姿をした幻影を二体。

意思のある人間なら、こんなデコイに引っかからない。


 だが、相手は洗脳されている。

 もしかすると引っかかるかもしれない。

そんな可能性はある。


 いや、ダメだ。

 そんな小さな可能性程度では。



「どうする、どうする、どうする――ッ!」



 “戦闘補助”のスキルは使えない。

 使えば、戦士に動きが読まれる。

下手すれば、致命的な負傷へと誘導される。


 考え続け、脳が焼けそうだ。

 そんな俺の耳に、音が届く。

コーン――と何かを知らせる様な金属音。


 咄嗟に横へと大きく転がる戦士。



【スキル発動を検知。神鳴ケラヴノース



 青い稲妻。

 それが俺の頭上を飛び、戦士の傍に被弾。

その隣の大木を撃ち倒した。


 

「魔法……この状況で、更に新手の敵かッ!?」



 100メートルか、200メートルか。

 分からないが、先の陰に敵の魔法使いがいる。

洗脳済みの仲間だろうか。


 こんな状況で、更に敵が増えるとは。

 なんて逆境――



「待てよ」



 雷を撃ったのは敵の魔法使い。

 敵のパーティの一人。

よって、戦士の仲間のはずだ。

なのに、戦士はさっき――



「そうか」



 立ち上がる戦士を見て、理解する。

 戦士は雷撃の前に、横へと大きく転がった。

その意味は一つ。

警戒。


 ――「フレンドリーファイアかよ」


 俺は、あの時のカプラを思い出した。

 あの時のカプラの殴り。

照れ隠しだったのか分からないが、あれは痛かった。



引力ヴァリタスの冷却時間、残り3秒】



 機械音声。

 俺はそれを聞いて、武器を手放す。

長剣を再び地面に投げる。

これで、俺が持つ“金属”は全て捨てた。



「おーい! 俺はここだッ!」



 そう言って、敵が潜伏する方向に手を振る。

 その立ち位置は、さっき俺が置いた幻影の背後。

蜃気楼の背後。


 直後、俺は――戦士の斬撃を避ける。



「……ッ」



 スライディング。

 戦士の股の間を抜ける。

その背後に立ち、“金属音”を待つ。

コーン――と鳴り響く、金属音を。



「来た」



 さっきよりも近い金属音。

 それを聴いてスキルを発動する。

冷却時間の短い、そのスキルを。



【Eスキル:引力ヴァリタス――】



 そして、俺は右手を後ろに掲げる。

 長剣対象を見れずに――掲げる。



【――射程外アウト・レンジ。対象に近づいて下さい】



 俺はもっと右手を突き出す。

 戦士の背中に当てる。


 次の瞬間――長剣が宙を舞う。

 それと同じタイミングで――


 ――閃光が飛んだ。 


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