第33話 スキル vs スキル。


 カプラの血。

 右肩を斬られた。



「……ッ!」



 彼女を斬ったのは――戦士。

 金髪、紫色の瞳、ボロボロの皮鎧。

その肩から小さな赤マントが垂れる。

その赤マントには、金色の紋章と何者かの落書き。

ヤツの巨大な斧は使い古されている。


 この敵は、この大男は――紛れもない人間だ。



「何しやがる……――ッ!」



 カプラが倒れた。

 その前に立ち、俺は吠える。

怒号は敵の耳に届かない。

その心に響かない。


 その男の瞳は死んでいた。



「ダメ……この人、洗脳されている……ッ」

「洗脳……そうか」



 ここにはモンスターがいる。

 魔法の様なスキルが存在している。

それならば、他人の意思も操れるはずだ。


 何と言っても――魔女がいるのだ。


 意思を失った攻撃。

 それが目前で唸る。



「……このッ!」



 戦士の斧による攻撃を避ける。

 上から下への斬撃。

その刃が俺の頬を掠める。

小さな傷が入り、血が飛ぶ。



【被ダメージ19】



 今度は俺の血だ。

 蜃気楼ではない。本物の血だ。

心臓が早まり、死の感覚が背を冷たく伝う。



「クソが……上等だってんだ」



 心臓の早鐘を打ち消すように――

 機械音声が鳴る。



【Eスキル:戦闘補助ヤハタ、発動】



 戦士が斧を裏返す。

 再び、逆方向から斬撃を繰り出してくる。

上方向に斬撃。

それを検知した戦闘補助が、俺の腕を動かす。


 斧を長剣で受け止めようとする。

 これに対し、戦士は一歩踏み出す。

踏み出し、踏み込んで、脚を開いた。

そうする事で斧の“力学的な支点”を変える。


 戦士は、斬撃の軌道を変えるつもりだ。

 俺が長剣で受け止めるのを見越した動き。

間違いない。この敵が持つスキル――


 この敵は、戦闘補助ボットの動きを読んでいる。



【戦闘補助、発動停止スキル・オフ



 だが、俺の方が上手だ。

 俺には意思がある。

アドリブが可能なのだ。


 斬撃を避ける。

 長剣を逆さに持つ。

敵の視界から、武器の認識を断つ。



「……あぁ」



 敵の動きが明らかに鈍くなる。

 思った通りだ。

敵も何らかの“戦闘補助”スキルを持っている。


 そして、この種のスキルの発動条件。

 それは、敵の戦闘意思を確認する事。

武器を認識する事。


 だから、俺は――剣を捨てる。



「うおぉおおおおおああッ!」



 俺は駆けていく。

 敵の懐に飛び込む。

そのまま、押し倒そうとする。



「がッ……」



 斧を取り落とす戦士。

 だが、倒れない。倒せない。

さっき取った姿勢のせいで、強固な安定感を持っている。



「何で……力はあるはずなのに」



 ビクともしない。

 大柄の力士を倒そうとしているみたいだ。

だが、これはおかしい。


 少年になったとは言え、俺には力が備わっている。

 前世よりも強力になっているはずだ。

それが、これではただの少年だ。


 敵に、まだ未確認のスキルがあるのか。

 機械音声は、全てのスキルに反応する訳ではない。

それは何となく分かってきていた。


 ドラゴン戦でも、何回か反応しなかった。

 アイツは“劫火”や“白光”以外にも、スキルを使っていたはずだ。



「倒れ……ろッ――!」



 俺に押されながら、戦士が手を掲げる。

 反応する、機械音声。



【スキル発動を検知――引力ヴァリタス

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