第32話 開戦合図。


【Eスキル:付与、第2条件……――待機中】



 俺の内で響く、機械音声。

 それがまた意味不明を言っている。

俺は思わず、首を傾げた。


 そんな俺の“反応”を見つめる、カプラ。

 かなり訝しげだ。



「何よ?」

「……何でもない」



 俺はドラゴンからスキルを奪った。

 強奪した。

けれど、まだ使いこなせてはいない。



 ――『対象βベータから、13個のスキル強奪に成功』



 “強奪”直後、機械音声は13のスキルと言った。

 今まで俺が使ったスキルは6つ。

白光、蜃気楼、引力、戦闘補助、旋風……劫火。


 残るは7つ。

 俺が使っていないスキルが7つある。

得体の知れないスキルが7つも。


 付与は、その中の1つだ。

 その性能や使用条件は何か。


 使用条件が整わなければ、スキルは使えない。

 そして、使える状況でなければ――スキルの詳細が分からない。

逆に、使えるとなれば――すぐに理解できる。


 この異世界、クソ仕様が多すぎるな。



「ともかく、だ」

「何が“ともかく”なのよ……」



 置いてきぼりのカプラ。

 その美少女の横に並ぶ。


「ともかく追うぞ」

「……はいはい。なんか慣れてきたわ」

「何に慣れたって?」

「あんたに」


 轍。

 荷車の跡、冒険者達の足跡を追う。

俺達は姿勢を低く、慎重に森の中を歩く。


 ぬかるんだ土を踏み締め、藪を抜けて――霧の中へと踏み入っていく。



「こんな霧……さっきまで無かったのに」

「湿気は、さっきからあったでしょう」



 森の中に入った時から、強い湿気を感じた。

 確かに、それはそうだ。

だが、こんな霧は無かった。


 心なしか、周りも暗くなってきている。

 まだ夜でもないのに。


 それに、水の音がどこからか聞こえる。

 まばらな水の音が。



「これは……スキルだな」



 これ――この霧は敵のスキル。

 それも異質なスキルだ。


 寒気の様な感覚がする。

 身体が拒絶しているようだ。

今まで、こんな拒絶反応は無かった。


 敵のドラゴンのスキルに対しても。



「スキル……?」

「視界を遮る……いや、“見えにくくする”スキルかな」

「見えにくくする? それで私達の視界を遮るって? そんな事して何の意味が……」



 敵から自分の姿を見えにくくするスキル。

 隠密の為のスキル。

それを使うとすれば、いつか。

敵を陰から狙う時だ。



「隠れているかもしれない。敵が」



 俺は声を落とす。

 カプラも合わせる。



「でも……これじゃあ相手からも見えない」

「俺達の位置を掴んでいるんじゃないか。大体は」

「ううん、それでもダメよ。攻撃系の詠唱スキルは相手を見ないと、効果が十分にならない」



 敵に対する隠密。

 それを行う場合、その目的は2つ。

単なる情報収集か――虚を突いた奇襲。


 奇襲の場合、最も有効な手段はきっと魔法スキルだ。


 近接で叩くには、もちろん近づく必要がある。

 その為に、奇襲には遠距離からの飛び道具が要る。


 弓矢は空気を切る時、音が鳴る。

 けれど、スキルは通常感知が難しい。

機械音声が無ければ厳しい。



 ――『少年さん……?』

 ――『だな』



 カプラは“劫火フォティア”の発動に気付かなかった。

 俺に手を引かれるまで、岩の後ろに隠れようとしなかった。



「見れなくても、相手に自分を見せる……ううん、知らせる必要があるの」



 カプラがそう言った直後だ。

 血が飛び散った。



「……ッ」



 カプラが斬られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る