第31話 第2条件――許すのは誰?


 俺は跪く。

 土の上の轍を見つめる。



「それは?」

「ん。わだちだ。荷車の跡だよ」



 俺達は運が良い。

 なぜなら、荷車の跡がある。

その周りには、たくさんの足跡。


 カプラも横に跪く。

 彼女も気付いた様だ。



「それに足跡も……って感じかしら?」

「ああ、5人分だ。深い足跡がある。多分、重い鎧を着ている奴の……だろうな」



 間違いない。

 この人数と荷馬車。


 対象とその護衛だ。

 そういう布陣をしている。

つまり――



「これは、他の冒険者達パーティの足跡だ」



 足跡の他に、棒で地を突いた様な跡がある。

 この跡は――杖か。

それも“2つ分”ある。いや、2人分だ。


 穴の大きさが違う。

 杖の形状の違いか。

種類の違いか。



戦士アタッカー1、盾役タンク1、魔法使いメイジ1……回復役ヒーラー1」

「何それ」

のパーティ構成」



 味方か、敵か。

 分からない相手の事を、俺は分析する。


 どちらにしても、“手がかり”には違いない。

 この森から出る、手がかり。

相対する価値はある。



「パーティ構成……そんなの分かるの? これ足跡だけで」

「大体の予想だって。“分かった”って程じゃない」



 “実戦”とは程遠いゲーマー。

 ドラゴンとやり合うまで戦歴はゼロ。


 そんな俺の予想なんて、外れるかもしれない。

 けれど、当たるかもしれない。


 当てずっぽうの予想でも良い。

 可能性のある事は、全て試すべき。

それが“攻略”の秘訣だ。



「予想ね。へえ……」



 カプラは真剣に土の跡を見る。

 それを観察している。


 彼女は、戦闘の中で学んでいた。

 前の戦闘、ザコ戦の中で。


 一度見ただけで、俺の動作を真似ていた。

 真似て、敵の矢を宙から落としてみせた。

彼女には、斥候役スカウトの才能がある。



「私には分からないけど?」



 やっぱ無いかも。



「……まぁ、それでもいい。予想だし」



 俺は立ち上がって、膝の土を払う。

 カプラも同じように立ち上がる。



「追うぞ。この跡」

「分かったわ」



 そう言いながら、カプラは銀髪を後ろに手で払う。

 その彼女の背中に、俺は手を回す。

姿勢を低くさせる。



「……何?」

「ここから先は隠密行動。音を立てないように歩くぞ」

「あぁ……そうね」



 カプラは頷き、自分の背を見る。

 背に掛かった俺の手を見る。


 俺は視線に気付いて、手を退ける。



「どけて――って言ったっけ?」

「俺をからかうな」

「……からかったっけ?」

「からかっただろ」



 カプラは銀髪の髪を指で回す。

 クルクルと。



「そうなるんだ。そっか」



 何だ、この空気感は。

 やめろ。変なタイミングで“雰囲気”を作るな。

長耳の先まで赤くするんじゃない。


 さっきから何なんだ。

 俺の方までドキドキする。

童貞には刺激が強すぎる。

このままじゃいけない。


 俺は、俺には―――



 ――「ねえ、好きだよ」



 あの時の告白が、まだある。

 俺の中に残っている。


 それなのに、これは許されない。

 許されない――感情だ。



【Eスキル:付与、第2条件……――】

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