第30話 手がかり――跡。


 遅れた質問。

 本当はもっと前に聞くべきだった。



 「どうやって帰るんだ? お前」



 この質問を聞いたカプラ。

 しばらく静止。動作停止。



「どうやって――って?」

「カプラは山間の街に帰らなきゃだろ?」

「“やるべき事”が終わったらね」

「帰るべき街は崖の上にある訳だ……どうやって、崖を上るんだ?」



 俺は言いながら、不安を深めていく。



「そもそも、あの岩の崖がどこにあるのか。もう見つからない……森から出られるかも怪しい」



 カプラは人差し指を立てて、左上を見つめる。

 そこには当然、何も無い。



「それは……アレよ」

「アレ?」



 ふぅむと考え込む美少女。

 その末に、こっちを見てくる。



「……どうしよう」



 何か考えている風だったのに。

 その実、何も考えていなかった。

この娘、アホの娘かも。



「てかね! 最初に、あの崖から飛ぼうってしたのはあなたよね!?」

「それはアレだ……」

「アレ?」



 もったいぶって間を取る。

 意味ありげな間。



「マジごめんなさい」



 カプラにバシッと叩かれる。

 痛い。案外、力が強い。

こちとら少年なんだから、手加減しろ。



「ててっ……にしても、マジのマジな話」

「うん」

「どうしようかな……?」

「……うん」



 俺は転生して、この地に来た。

 縁もゆかりもない、この世界に来た。


 従って、この世界の地理が分からない。

 俺が知っているのは、崖と森だけ。

そのわずかな一部だけだ



「そもそも、ここって“何処”なんだ?」

「何を今さら……魔女の森よ」

「その魔女の森ってのは、何処にある?」



 俺は、この世界を知らない。

 だが、カプラは帰さなければならない。

彼女が安心できる場所に帰す。


 俺には、その“責任”があるから。


 その為にも知らなければ。

 この森がどの国のどこにあるのか。



「“バテア王国”の東の外れ。一応ラトゥア落ち目男爵サマの領地って事になってるけど、実際は魔女の住処。まぁ、本当は聖者のモノであるべきなんでしょうけど」



 色々と気になる名詞ワードが出てきたな。

 男爵、魔女、聖者。

けれど、気にするべきなのは……――



「バテア王国?」

「そう。小王国ことバテア王国。でも、ここったら外れも外れだからね。隣の“レムナーヤ帝国”の方が近いまであるかな」



 聞いといて何だが、今は役立たない情報だ。

 この森を抜けるという目標において、第一に必要ではない事。

だが、後で必ず役立つ情報だ。


 地理的に、この森はかなりの“要所”らしい。

 王国にとっても、帝国にとっても。


 そんな森を支配した魔女。

 彼女は、やり手に違いない。

手強い敵だ。



「それで……どう?」

「どうって何?」

「どうにかなりそう?」



 俺はカプラの質問に悩む。


 ドラゴンに剣を刺した時――

 あの時、森の全体像をある程度見た。

あとは、俺の記憶次第だ。


 ――『やだ! この人、何してんの!?』


 あの時の俺達は、双月を背に飛んだ。

 であれば、太陽を背に歩けば良い。

肝心の太陽は見えないけれど。



「いや……まぁ……」



 陽光で伸びる、俺たちの影。

 その影の先――その土の上に跡がある。

わだちがある。



「何とかはなる……かな?」



 俺達は運が良い。

 これは荷車の跡だ。

つまり――

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