第28話 魔女の所にいる。
立ち止まる美少女。
振り返り、言う。
「じゃあ、一から話さないとね。私からね」
私から――その意味は、次があるという事。
カプラが話した“次”は、俺が話せという事。
それはそれとして。
今は、カプラの話。
「私は……ううん、私達は
カプラが右の人差し指を立てる。
立てて、斜め上へ向ける。
どこかの場所……“街”を指している。
「あの辺り……って見えないわね……」
向けた指の先は、木々の葉で見えない。
その見えぬ先に、
彼女が指しているのは、森を囲む様にあった山の方。
俺たちのいた、岩の崖の方だ。
その上の方らしい。
「ともかく、去年の冬。私たちは
人差し指を下ろし、カプラは息を吐く。
はーっと吐かれ、熱のこもった息が散る。
「私とお兄ちゃん、2人だけの冒険者パーティとして魔女を討伐に来たの」
「2人だけ……」
2人だけのパーティ。
今の俺達と同じだ。
俺とカプラの2人だけ。
「……パーティ構成は?」
「魔法剣士と盾役。まあ、お兄ちゃんは詠唱師っぽい事もしてたけど」
「盾役ってのが、カプラのお兄さん?」
「そう」
お兄ちゃんの負担が凄いな。
盾役をやりながら詠唱師というのをやっていた。
少人数パーティの弊害なのか。
しかし、それ以上に違和感がある。
このパーティ構成……――
「パーティに回復役がいない……のか」
「仕方なくてさ。亜人とは誰も組んでくれなくて」
カプラは少し目を泳がせる。
それから、頭を振る。
嫌な思い出を振り払った様だった。
「でもね、詠唱師ってスキルLv5以下までの回復術なら使えるから。お兄ちゃんも、まあ、それなりに出来てた」
それなり。
それなり、では困るのでは。
回復方法は、一番大事な所だ。
それを担う
戦闘以前の話になる。
そんな、ゲーマーとしての苦言が頭を過ぎる。
いくつか、口から汚くも漏れそうだ。
俺は、そんな異物を払う。
今度は、俺が頭を振る番だ。
間の前の“顔”を見れば、一目瞭然である。
「出来てたんだけど、ね……」
カプラの悲しげな顔を見れば――分かる。
こんな顔に対して、苦言など無理だと。
男として、そんな事が出来るか。
「私たちの探索は順調だった。この
随分と出来たお兄ちゃんだ。
一人っ子としては羨ましい。
冒険者として、妙な感情も覚えるが。
お兄ちゃんさえいれば……か。
「今、お兄ちゃんは何処に……?」
咄嗟に口から出た質問。
言ってしまって、後悔する。
踏み込みすぎたか。
けれども、カプラは答えた。
答えてくれた。
「お兄ちゃんはね――今は魔女の所にいる」
その金色の瞳をくすませて。
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