第27話 カプラ・フォニウスについて。


「お前は勇者になるんだろ」

「バレたか!」



 ちょっと砕けたやり取り。

 その中で、カプラは受け入れてくれた。

俺が転生者だ――という告白を受け入れた。


 これは大きな前進だ。

 というか、普通に俺が嬉しい。

嬉しがって良いんだよな……コレ。


 俺は笑顔を引き攣らせる。



「でも、そっか……戦い方も凄かったしね」

「よせやい」



 カプラをちょっと小突く俺。

 ちょっと小走りに、彼女に近づいて、ちょんと。


 演劇舞台で見る、演技のようなツッコミ。

 場違いなツッコミ。

これに、カプラは立ち止まった。



「いたっ」

「あ、ごめん」



 大袈裟に痛がる彼女。

 そんな“フリ”をした後、笑う。



「冗談」



 年上っぽい微笑で、デコピンを飛ばす。



「思い知ったか、少年っ」



 泣いたり、怒ったりして。

 今まで、そんなカプラばかりを見た。

けれど、こういうのが素なのだろう。


 これが彼女らしい仕草なのだ。

 俺も、それらしく言い返すか。



「おい。少年はやめろ」

「じゃあ……名前呼びにする?」



 カプラがそう言う。

 唇を触りながら、言う。



「して欲しい?」



 俺は、ちょっと……かなり動揺。

 息が詰まる気がして、シャツの首元を引っ張る。


 カプラが唇を触るのを見て、思い出してしまった。

 あのキスが頭の中で蘇った。

その匂い、感触が。


 俺は一歩、後ずさりする。



「何だよ、それ」

「して欲しいんじゃないの? ……名前呼び」

「して……欲しくない」

「ふーん……んふふっ」



 それから、カプラがまだ笑っている。

 それに、俺はぎこちなく笑い返した。


 戦闘中は、ある種の自然に笑い合えた。

 けれど、こういう雰囲気だとダメだ。


 コミュ障が爆裂する。



「なんか……懐かしいなあ」

「うん?」

「いや、私、兄妹いるんだけど。“お兄ちゃん”ともこういうやり取りしたから」

「へえ……こういうやり取りって?」



 深い意味は無いんだろう。

 でも、こういうやり取りとは何だ。

さっきのみたいな会話を、兄ともしたのか?


 俄然、カプラの兄に興味が湧いてきた。



「カプラのお兄さんって、どんな人?」



 カプラは前を向く。

 それから、宙を見上げる。

過去そらを見る。


 陽光のせいか、彼女の瞳が金色に輝く。



「ルカって言ってね。凄い人」



 目蓋を閉じるカプラ。

 その蓋の中で眼球を動かす。



「凄い冒険者だった、お兄ちゃんは」



 蓋の中で眼球を転がす。

 誰かの影を追うみたいな仕草。

そのまま、カプラは優しく微笑む。



「どんな強い敵にも臆さない、物語の中の勇者みたいな人でさ。私もあの人みたいになりたくて」



 カプラの背が、大きく息をする。

 深呼吸が一つ。


 ――「そこが似てんだよな」


 少し前の出来事。あのキスの前の事。

 回復薬を巡る、押し問答を思い出す。

アレは、カプラの兄を思い出しての台詞か。


 俺も深呼吸を一つ。



「だから、勇者になろうって?」

「そうね……まあ、それだけじゃないけど」



 カプラの眉間にシワが寄る。



「バカにされたから――なんて理由もあるかも」

「……え、誰に?」

「みんな、よ。あの“山間の街”の連中に」



 目蓋をパチッと開ける。

 それから、金色の眼差しがまた向けられる。

俺へと向けられる。


 カプラは、俺の“質問”を待っていた。

 望み通りに聞こうか。



「……山間の街って?」

「最悪な“聖者”が支配する街よ」

「そこのみんなに、バカにされた――って話?」

「そう! 聞いてくれる!? もう酷いんだからっ! あいつら、魔女に歯が立たないからってさ!」



 また怒っている。

 けれど、今回はこれで良いのかも。

この際、ここでパーッとぶちまけた方が良いのだ。


 それに良い機会でもある。

 カプラの身の上話は、聞きたかった事。

何があったのか、聞きたかったのだ。


 ――「私は――“ゴミスキル”じゃないッ!」


 カプラは、あの言葉に過剰な反応をした。

 それは何故か。

 

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