第24話 覇者――ゲーマーの考え方。


【突風、冷却完了クールダウンしました】



 冷却終了クールダウン

 冷却時間クールタイムが終了した、という事だ。


 それを知らせる機械音声だ。

 地鳴りの音が、それを潰したのだ。



「何だ」



 迫り来る、ボス級。

 もう300メートルは近くにいる。


 あり得ない。

 さっき、感じた反応は遠かったはずだ。

10キロメートルは遠くに感じた。


 それが、今や50メートルだと。

 あまりに近すぎる。


 猛烈な移動速度。

 速すぎる。

今や、15メートル先――



「コイツはッ――!」



 露わになる強烈。


 筋肉隆々の人型、しかし紛れもなく怪物。

 頭から角を生やした、“半人半牛”。



「……ミノタウロス」



 カプラが怪物の名を口にする。

 ドラゴンに遭った時と同じように。


 カプラは、この怪物を知っている。

 この黒い肌の巨人もどきを。



 ――『魔女の使役獣しえきじゅう……何で、こんな所に』



 意味深な台詞が頭を過ぎる。

 コイツもそうなのか?

けれど、今は――



「カプラ」

「うん」

「逃げるぞ?」

「うん……え、ちょっと!?」



 もう十分だ。

 この戦いは、ここで終わり。

戦果は十分にあった。


 は、これでいい。



「次があるさ」



 俺はカプラにそう言う。

 それから、また彼女の手を握る。



「……まぁ仕方ない、か」



 後ろを振り返るカプラ。

 棍棒を持ったミノタウロスが、彼女を見返す。


 その眼光、鋭い青。

 棍棒から滴る、赤い液体。

その右肩に刺さった、銀色の大きな斧。


 それに、カプラは臆さない。



「次ね」



 次は私が殺す。

 カプラの瞳がそう言っていた。

いい。程よく燃えている。


 その“炎”に感心する間もなく――


 敵が高速で移動。

 間近に怪物ミノタウロス



「げっ!」



 今や、その距離、30センチ先。

 その熱い吐息が掛かる。


 咄嗟に、俺は剣戟を放つ。

 それを交わした、ミノタウロス。

ひょいっと難なく。



「マジか――ッ!」



 俺の攻撃が宙を斬り、地面に当たる。

 衝撃波が発生する。


 その波で、ミノタウロスは一瞬体勢を崩した。


 好機だ。

 そう思う、初心者ビギナーならば。

しかし、俺は違う。



「カプラ――ッ!」



 俺は、大声でカプラを呼ぶ。


 反応したカプラが手を伸ばす。

 それを急いで取り、俺は跪く。

そして、カプラを抱える。


 お姫様だっこ。



「ちょっと、ちょっと!?」



 暴れるカプラを抱えて跳ぶ。

 俺は跳ぶ。

奇人、変人の仕業。



【Eスキル:突風、発動】



 俺は飛ぶ。

 戦場を――飛び越えた。

 


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