第23話 冷却完了――クールダウン。


 俺は、敵の陣の合間に着地する。

 そして、カプラを投げ飛ばす。


 繋いだ彼女の手を引っ張って、力のままに遠くへ。



「うぉいっ――!」



 遠くへ飛ばそうとした。

 けれど、カプラが地面に足を突っ張った。

そのまま転んだ。


 衝撃に、大木の枝が落ちる。



「ぶべっ……」



 起き上がり様に、カプラが怒る。

 角まで土まみれの顔で。



「何すんのよ!?」

「逃げろ。俺がここは時間を稼ぐ」

「はぁ……――!?」



 強力な存在を感じた。

 このザコ敵の大群に――引き寄せられている。

何か、“ボス級”の存在が迫っている。


 だから、カプラを遠くに逃がそうとしたのだが。



「あのね……やり方ってもんがあるでしょう!」



 続いて――「これが女の子の扱いかァ!」と怒るカプラ。

 確かに、おっしゃる通りだが。

そんな事、言ってる場合か。


 恐らく、カプラの怒りの主因は違う。



「大体ね……逃げないから、私」



 カプラは落ちた大木の枝を拾う。

 拾って、剣のように構えた。

脚を踏み込んだ、しっかりとした構え。


 自分が逃げると思われた事。

 彼女は、それに怒っている。



「もう逃げない」



 分かっていた。

 カプラの覚悟は決まっていた。


 けれど、今は逃げて欲しかった。

 なのに、なぜだ――



「まったく……」



 俺が笑っていた。


 それでこそ――と思っていた。

 不合理だ。

けれど、感情が燃えている。



「残念だな。でも、抑えないといけない」



 俺は意識を集中する。

 出て来い、機械音声。



【Lv.1旋風の冷却時間、残り7秒】



 カプラが枝を振るう。

 ヒュンッ――と飛んできた矢を落とした。

枝に絡めとる様に、勢いを殺した。

払い落とした。


 俺がやった芸当だ。

 学習したのか。

一回、見ただけで動作を学んだ。


 そして、応用した。



「やるな」

「……当然でしょ」



 歯を剥くカプラ。

 それと、俺は笑いを交わす。



「私、勇者だもん」



 キメ台詞。


 その直後、足で地面を擦る。

 砂ぼこりを立てる。


 出来るだけの煙幕。

 無いよりはマシだ。

スライムの時も、何だかんだ役立った。


 あと――これは、ゴブリン戦で役立ったモノ。



【Eスキル:蜃気楼パンタズマ、発動】



 やはり、“これ”の冷却時間は終わっていたか。

 この蜃気楼パンタズマは使える。

使い勝手の割に、冷却時間が短い。



「走れ」

「え……また――?!」

「迎撃スタイルを維持したままだ。走れッ!」



 囮に設置された幻影。

 それに敵の矢が集中する。


 けれど、この囮は長続きしない。

 そして、十分だ。



「機械音声――ッ!」



 俺は昂る感情のまま、呼び叫んだ。

 カプラが、意味分かんないわ――という顔だ。

もういい。後で説明すればいい。



【突風、冷却完了クールダウンしました】



 待ちに待った、その声。

 それに被せるように――


 地鳴りが轟いた。

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