第22話 ドラゴンと同じ様に。


【スキル:旋風】



 スキル発動直前、俺は後ろに下がる。

 3歩、大きく下がる。



【発動】



 風が発生した。

 機械音声が言う通りの突風。

突如吹き出した強風。


 その風が、俺の“3歩手前”で起こっていた。


 風が、向かう先の敵を飛ばす。

 敵の陣を散らす。

突破口を開く。



「掴まれ、カプラ」



 俺は、カプラに手を差し出す。

 強引に握らないで、彼女を待った。



「また策なの……?」

「というよりは、“勝負”かな……」

「分かった。しっかりね」



 随分と従順になったカプラ。

 その急変に驚いたが、今は対応できない。

今は、大変だ。急がないといけない。


 この突風は、短時間で収まるスキルだ。

 それが“感覚”で分かるから。


 横目に、俺は見る。

 敵の陣に空いた突破口は、まだ狭い。



「周りの敵が、邪魔か」

「独り言デカ……」

「ごめ」



 今までの戦闘が頭の中を駆け巡る。

 ドラゴンがどう戦っていたか。

今一番大事なのはそこだ。


 今の俺は、あのドラゴンと同じ武器スキルで戦っている。



「いくぞ」

「うん」



 2回目の掛け声。

 カプラが頷き、髪が揺れる。


 その合図に、俺は踏み出した。

 1歩、2歩……――3歩。



「――ッ!」



 そして、風に乗る。


 その突風に押されるように、俺たちは駆ける。

 風を踏み、風に乗る。


 その最中、俺は――詠唱した。



「Eスキル【劫火フォティア】」

「へ!?」



 【白光イクリクス】は冷却時間クールタイムのせいで使えない。

 だが、この【劫火フォティア】は未使用だ。


 ドラゴンと初めて遭遇した時――

 ドラゴンが初めて、こちらに攻撃した時――

その時に使われたスキル。


 けれど、ヤツの“決め手”では無かった。

 殺す為に使われた――

いや、使われそうだったのは、違うスキルだ。


 あの時の機械音声は、こう告げた――



 ――【スキル:白光エクリクス、発動】



 あの時、ヤツが最期に使ったスキル。

 それは白光イクリクスの方だった。

その“一つだけ”だったのだ。


 白光イクリクス劫火フォティアは併用可能なのに。


 どうやら、二つのスキルの同時詠唱は出来ない。


 けれども、劫火フォティアは発動時間が長いスキルだ。

 先に、白光イクリクスの詠唱を済ませ、時間差で劫火フォティアを唱えればいい。

そうすれば、二つのスキルを同時に発動できる。


 それをやるなら、“最初に”唱えるべきは白光イクリクスではない。

 劫火フォティアの方だ。


 つまり、“同時使用”をするつもりがなかった。

 あのドラゴンは、最初からのだ。


 スキルの発動について。



劫火フォティア、発動】



 機械音声。

 それを合図に、炎が放たれた。


 発動者である俺がいた位置。

 移動し続ける俺の、さっきいた位置。

その10センチくらい前から、炎が出ている。


 俺たちの後ろから、炎が放たれていた。



「怖いっ! 大丈夫なの、コレ!?」

「大丈夫」



 俺とカプラは、この炎に焼かれない。

 焼かれはしない。

俺自身がスキルで出した、この炎には。


 フレンドリーファイアの心配はない。


 スキルの発動範囲は被らない。


 だから、ドラゴンは二つのスキルを同時使用しなかった。

 だって、意味がない。


 劫火フォティア白光イクリクスを同じ場に発生させようとしても、スキル同士が互いに互いの発動範囲を避け合うだけだ。

 ダメージの相乗効果は、無い。



「俺たちは、“突風”に守られている」



 【スキル:突風】の発動範囲に、【劫火フォティア】は干渉しない。


 俺は駆けて、敵の陣の最中に着地する。

 風が飛ばした、敵の合間に。


 そして――カプラを投げた。

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