第21話 回復役の倒し方。


 長剣を右手だけで、ゆっくりと回す少年。

 そして、俺は考える。少年らしくもなく。


 敵の構成。

 ゴブリン(近接)、骸骨兵(遠距離)、それからスライム……。


 パーティ構成に、回復役ヒーラーは不可欠。

 敵もそれを理解している。


 首を斬った骸骨兵の回復……いや、蘇生。

 それを成したのはスライムだ。


 つまり、このパーティの回復役は――



「お前が回復役ヒーラーだな」



 俺は屈みつつ、スライムを睨む。

 地面の土を左手で取り、投げる。


 軽い土煙が上がり、スライムの周囲を覆う。


 これでいくらか、回復の光を遮れるはずだ。

 完全じゃなくても良い。

効果を鈍らせられれば良い――その瞬間だけ。


 恐らく、敵のスキルにもクールタイムがある。

 けれど、そうで無かった時の保険は必要だ。

その為の煙幕。


 それだけの為でもないが。



「カプラ」


「うん……?」


「行くぞ」


「……うん」



 片足で地面を踏み、一足飛び。


 煙幕の中、己が姿を隠して。

 その土色ごと、自らで貫くように。


 弾丸のようなジャンプで、前へ。

 スライムとの距離を一気に詰める。


 あくまで、冷静に。

 敵の位置関係を頭に置いて。

長剣を両手に持つ。



【Eスキル:戦闘補助ヤハタ、起動】



 機械音声。


 そして接近の後、長剣を振り上げる。

白刃を棍棒のように、敵へ振り下ろす。

下へと叩き付ける。


 スライムを潰す。

 べとっ――とした体液が飛び散った。



「うわ」



 後ろから、カプラが駆けて来ていた。

 ちゃんと、ついてきているな。


 俺は顔をそちらに向け、ちょっと笑いかけた。

 それから言う。



「次だ」



 右腕を捻り、掴んだ長剣の柄を回す。

 刃の先が地面に付いた剣。

それをくるっと回転。


 その刃を、上へと向けた状態で下ろしたままに。

 白刃を待たせる。



 ――ウガァアアアアアアアアア!



 棍棒を振り上げ、ゴブリンが迫る。


 棍棒を振り下ろすゴブリン。

 身体を少し横に逸らし、それを回避。


 よろけた、ゴブリン。

 その位置は、地面に下ろした刃の上。



「次……――次も殺す」



 俺は長剣の白刃を上げる。高速で。

 ゴブリンを――一刀両断にする。


 そのまま剣を頭上に掲げ、一時停止。


 右足を後ろに、両脚の感覚を広げる。

 腰を低くして、姿勢を安定。


 目を閉じて、自身の動きを預ける。

 自分のスキル【戦闘補助】に。



「そこ」



 ヒュンッ――と音。

 その音――飛ぶ矢の音に、身体が即時反応。


 身をわずかによじって矢を避ける。


 目蓋を開けて、駆けてきた敵を目視。

 その骸骨兵スケルトンを斜めに斬りつける。

斬り下ろし、上半身を斬り落とす。


 落下の衝撃で、首の骨が砕けて、敵の頭蓋骨が転がる。

 またも。


 その頭蓋骨が、俺の足元に転がってきて。



「殺す……殺す」



 俺はソイツを踏み潰した。



「ねえ、ちょっと……大丈夫?」



 ついてきたカプラが声を掛ける。

 少し引き気味な感じだ。


 まあ、いいか。



「大丈夫。これで勝ったも同然だ」



 そう言うと、カプラは目を丸くした。

 自分の台詞が自分に返ってきたのだ。


 それで、口を尖らせるカプラ。



「まだいるからね、敵!」


「あぁ……まあな。だからこそ――」



 実際の話――

 俺は、ここまで二つパーティを潰しただけだ。

敵は、まだ大量にいる。残っている。


 でも、もう殺り方は分かったから。

 ここで区切りをつけよう。


 これ以上は、消耗戦だ。

 だから――



「――これで終わらせる。今度こそ」



 俺はキメ台詞を言う。

 二度目の台詞。


 その後、機械音声。

 その決め手を、告げる声。



【Eスキル:突風】



 この一連の戦いは、これで一旦終了。


 


 

 



 


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