第20話 スキルは、この手にある。


 右腕を横に伸ばす。

 さっき落下した、白き死体へと。


 そのドラゴンの死体に刺さった武器へと。

 その長剣ロングソードへと――手を伸ばす。

未来へと、希望へと。

この手は必ず届く。

そう信じた。


 そして、目蓋を閉じる。



【Eスキル……――】



 機械音声が聞こえる。

 新たなる力の発現を告げる声。


 それを妨げる声。

 美少女の声。



「危ないッ」



 その声は、俺より先に察知した。

 その殺意、その凶器を検知した。


 それから、風の音。


 目蓋を開ける。

 煌めきが見えた。



【発動阻害】



 風の音。風を小さく切る音がした。

 脳内の機械音声を妨げて、遮る風切り音。


 空気を貫き、飛ぶ矢の音がした。


 放たれた矢が、俺へと向かっていた。

 俺を射殺そうとする、矢じりが煌めく。


 それは骸骨兵の矢だ。

 迫る敵パーティの襲撃だ。


 弓持ちの骸骨の兵士、棍棒持ちのゴブリン、それにスライム。

 その敵パーティの内の一体。そいつの攻撃だ。

骸骨の弓兵の一撃。



「この――ッ!」



 ヒュンッ――と殺意が鳴る。


 それは、迫る矢じりの音。

 殺意が込められた、必殺の凶器。

それが飛んで来た。


 俺は軽く、左手を振り切った。

 左手のナイフで斬り払った。

横一筋に、矢を斬った。


 その動作の中、あるモノを



 「やべ」



 俺は、ナイフを落とした。


 矢を斬った衝撃のせいだ。

 そのせいで、柄と刃の接合部が壊れた。


 ドラゴンにトドメを刺したのも、このナイフだ。

 酷使が過ぎたのかもしれない。



「キリヤ、武器が――ッ!」



 背後から、カプラの息を呑む音を聴く。

 思わず、俺に駆け寄ろうとする彼女。



「私も……一緒にッ!」



 そんなカプラを、左手で静止する。

 左手を低く掲げて――“待て”。



「大丈夫。まだあるさ」

「え……」



 遠距離の敵がいると、これだからいけない。


 油断してはいけない。

 ゲームだろうと、異世界だろうと。


 そこが面白い所だ。



【スキル:引力ヴァリタス……――発動】



 一閃。

 また、風を切る音。


 そして、武器が飛ぶ。

 武器が飛んできた。

俺へと向かって、飛んできた。


 その武器を、俺は右手で受け止める。


 ドラゴンに刺さっていた武器。

 それを治ったばかりの利き手で受けた。



「もう、武器は――この手にある」



 それは、竜殺しの長剣ロングソード

 それを再び、その手にした。

この右手に。


 【引力】。

 恐らく、このスキルの効果は、任意のアイテムの“引き寄せ”だ。


 アイテムを手にすると、所持リストに自動登録。

 所持リストのアイテムは【引力】スキルを使う事で、この手利き手に引き寄せる事が出来る。


 いつの間にか、スキルの効果まで自然と分かる。

 これが慣れってヤツか。



「ユウ――ッ!」



 カプラの叫びで、俺は前を見る。

 またも敵が迫っていた。

もはや間近だ。


 けれども、もう大丈夫だ。

 もう、武器を持っている。

あと、必要なのはもう一つ。



「あとは――殺す覚悟だけ」



 弾丸のように、射出。

 俺は駆けていく。


 足で土を蹴り、熱い息を吐いて――

 敵へと迫る。


 敵パーティの内の一体。

 弓持ちの骸骨兵の目前へと。


 コイツが、敵パーティの要だ。

 コイツは、敵パーティ唯一の遠距離職だ。

まず初めに叩くなら、コイツ。



 しかして、コイツは鎧を着ている。

 おとぎ話の騎士のようなピカピカの全身鎧。

そいつを骸骨兵は纏っていた。



「……ッ」



 俺は敵へと迫り、一歩手前で一瞬思考する。

 骸骨兵は硬い鎧を付けてはいる。


 だが、それだけだ。

 その下に他の防具……鎖帷子くさりかたびら等は見当たらない。


 ――れる


 俺は長剣を突き出した。

 思いっ切りに。


 敵の喉元を突き刺した。

 鎧の合間に、骨の合間に、白刃を突き刺した。



「殺す」

 


 そして、骨の間に刺した刃で、そのまま横に斬り払う。

 骨を砕いて、刃を横に逃がした。


 骸骨兵の頭蓋骨が後ろに転がる。



「やった!」



 倒れる骸骨兵。

 カプラが歓声を上げる。

そのまま、両腕も上げる。



「もう、勝ったも同然だね!」



 死地にそぐわない明るい声。

 それが場に不穏さを醸し出す。


 まだ、敵パーティは全滅していない。



「……フラグだろ、それ」

「へ?」



 無自覚なフラグ立て。

 そのせいだったかは分からない。


 ――こぽぽ


 敵パーティのスライムが変な音を出す。

 そして、突如として青色の光を放つ。



【スキル:治癒アキプスティコ、発動】



 スライムからの、その光を浴びた骸骨兵。

 それが立ち上がる。


 敵のスキルの効果により。

 


「回復魔法……か」



 敵も回復の手段を持っていた。

 そりゃあ、そうだろう。


 パーティ構成に、回復役ヒーラーは不可欠。

 敵もそれを理解している。



「勘弁してよ……」



 カプラが、両腕をくたっと下ろす。

 うんざりとした仕草。



「全くだ」



 反対に、俺は笑みを零す。

 戦闘バトルはこうでなくちゃ。


 ここより更に――面白い所。

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