第9話 宣言よ、舞い上がれ!


 キメ台詞。



「俺は、ここだよ――空飛ぶヤモリ野郎」



 ドラゴンが驚いたように、上を見上げる。

 ヤツの真上、遥かに高い位置に、俺はいた。


 なぜか?

 答えは、あの時にある。

カプラが手を離した時――あの時にある。



 ――『そしたら、手を離すぞ。!』



 あのを言った時だ。

 俺は、あの時、手を離さなかった。



 「俺は、カプラと“一緒には”、手を離さなかったんだよ」



 俺は、カプラと同時に、手を離さなかった。

 あえて、タイムラグを置いた。

4秒のタイムラグだ。


 カプルが離脱した4秒後、俺は手を離したのだ。

 カプラが落ちた4秒後に、俺が落ちた。


 そして、落ちながらに、マントを広げた。

 落下による風を受けて、ゆっくりと降下した。


 俺より先に、カプラが湖へと落ちた。

 それに、ドラゴンは夢中になった。

彼女を焼き殺す事に夢中になった。


 そして、俺だけを見失ってくれる。



「だけど、それだけじゃ、お前は俺を見失わない。そうだろ」



 賢い白竜には、それだけじゃ足りない。

 それだけじゃ、俺を見失ったりはしないだろう。


 俺は一人、呟き続ける事とする。

 聴こえるはずもない距離の竜に。

伝わるはずもない竜に。に対して。


 足りなかった物について。

 必要だった者について。



「俺を決して見失わない……そんなお前には、もう一つ必要だ」



 俺は、降下しただけではなかった。 

 その後、舞い上がったのだ。


 ――『火炎の熱による、上昇気流か』


 火炎の熱による、上昇気流。

 それに、木の葉が煽られて舞ったように。


 ドラゴンが噴いた火炎の熱による、上昇気流。

 その気流に俺は乗った。

マントに炎の気流を受けて、舞い上がったのだ。


 そして、ドラゴンの視界から外れた。

 それだけではない。この上昇気流の効果は。


 俺は、この瞬間、敵への戦術的優位位置アドバンテージを手に入れた。

 ドラゴンの真上、遥か上空。



「カプラを囮にする事が、必要だったのさ」



 声が震えていた。

 唾を飲み込む。

息が出来なくなりそうだ――

興奮で――息が出来なくなる。



「お前の視界から逃れる為に、戦闘優位性アドバンテージの為に」



 その為に――俺は、“殺意”を利用した。

 カプラを焼き殺そうとする――あの殺意。

あの瞬間の、“ドラゴンの殺意”を。


 ドラゴンの噴く灼熱が必要だった。

 上昇気流を作る、その熱が必要だった。


 俺の狙った瞬間に、その熱が噴かれる事。

 ヤツに勝つ為には、それが必要だった。


 その為に、カプラに殺意を向ける瞬間を作った。

 あの瞬間を作り出したのだ。俺が。


 先に、カプラが湖に落ちるようにして。



 ――『これから、君を酷い目に遭わせる』



 あの宣言通りに。

 俺は酷い事をした。



 ――『一緒に酷い目を見てくれ』



 今度は俺の番だ。

 今度は俺が見る番だ。

あの台詞を嘘にはしない。



「こっちを向けよ。そしたらさ」



 命を駆けて、なのに笑う。

 英雄とは似ても似つかぬ顔の者。

そいつは、宣言を行う。


 これから行う、全ての非道への宣言。



「俺の勝ちだ」



 勝利宣言。

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