第10話 誰よりも純粋で、唯一無二の――
俺が高く昇った理由。
それはドラゴンの視界から外れる為。
それだけじゃない。
俺が、戦闘における、
この理由には、物理ってのが関わってくる。
9/8[m/s2] 。自由落下する時、物体は加速する。
落ちる時、物体には加速度が掛かる。
これが重力加速度ってのだ。
この加速度が、今の俺にとっての――最大の武器だ。
俺は口の端を少し歪めて、セリフをキメ切る。
「ここで死んでやってもいいぜ。なあ、お前――」
俺は右手に持ったマントを、右腕に巻き付ける。
そうする事で右手を空ける。
開いた右手で“武器”を取り出す。
ポケットに入っていた、ナイフを出す。
――『何だ、これ……ナイフ?』
転生直後から、俺のポケットに入っていた物体。
ソレを取り出して、右手に持つ。
持って、真下に突き出す。
落ちながらに、俺はその刃先の狙いを定める。
俺の真下、ドラゴンへと突き付けるように。
「俺の命を奪ってみせろよ」
目を細める。その瞬間を見極める。
その瞬間は、一瞬だ。
その刹那が、勝敗を決める。
『むしけらが』
地が割れて、空が裂けるような声が脳を揺らす。
それは、真下からの声だった。
真っ白なドラゴンの声だった。
「喋れたのかよ……――すごいね、お前」
ドラゴンの口が開かれた。
開いた口の歯の隙間から、炎の光が見える。
光の塊が俺を殺そうとしている。
「良いね。程よく"剥き出し"って感じだ」
そこで、俺は言葉を思い出した。
それは、生前に耳にした言葉。
友人ちゃんの言葉。
――『じゃあ、君は何になるってんだ?』
――『このまま童貞を貫けば、魔法使いになれる』
――『ぶははっ』
バスで聞いた、亡くなる前の遺言。
彼女は一息吸って、大事な言葉を吐いて逝った。
――『しかしね、キミ。必要なモノがある』
彼女の言葉を
その
「必要だもんな――人生って"物語"には」
刹那の後、俺はマントを手放した。
風を受けて、俺を支えていたマント。
それを手放した。
だから、俺は急降下した。
反応して、ドラゴンも動く。
炎を溜めた口を大きく開く。
俺の攻撃を予測した、迎撃動作。
【スキル発動を検知……――】
ドラゴンは俺を狙っていた。
俺へと、炎のブレスを浴びせようとしていた。
俺を殺す為に。
殺す為に、ドラゴンは構え直した。
一直線に、俺の真下の位置に、構えた。
「ははっ」
俺は苦笑いを浮かべる。
こうも上手くいくとは、と。
こんな計画とも呼べない、杜撰が。
どうやら、俺もそれを持っていたらしい。
「お前も分かるか――この激情」
落ちる俺。
舞い上がった高さの分だけの、加速度によるエネルギー。
それをナイフの刃先に載せて――落ちる。
一直線に、真下へ。
台詞を投下。
「この熱情」
俺は落ちていく。
一つの感情が、俺を落としていく。
それは、人生に必要な一つ。
――『“白熱”だよ――
それも悪くはない。
過去から、台詞を
「この白熱――ッ!」
ドラゴンの呼吸音。
その次、機械音声が告げる。
【スキル:
それは唯一無二の感情。
誰が抱くよりも、純粋な熱情。
――殺意だった。
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