第11話 命を食らえ。


 機械音声が殺意を告げた。

 直下、ドラゴンの殺意を告げた。


【スキル:白光エクリクス


 これが聴こえたら、何かのスキルが発動する。

 今までの経験で、それは何となく分かる。


 けれど、スキルの発動はすぐじゃない。

 ラグがあるはずだ。

あの時もそうだった。


 ――【2ndサブスキル発動――言語変換】

 ――『……アルハーヤ、ダーング?』

 ――「もしもーし、死んでるの?」


 転生直後、カプラとの初対面の時。

 確かにあの時、俺は機械音声を聴いた。

つまり、あの時、何かスキルが発動したのだ。


 そして、『言語変換』というスキル。

 あれは、名前からして、異世界語を日本語に翻訳するスキルに違いない。

事実、そうだった。


 ――『……アルハーヤ、ダーング?』


 機械音声がしてから、のカプラの声には、その効果が反映されていなかった。

 あの時、効果の発動には、ラグがあったのだ。


 俺はその“ラグ”の間に、ドラゴンへと落ちる。

 真下で構えた、ドラゴンへと。

ヤツが炎を吐くよりも早く、自由落下する。



「いっけええええッ――――!」



 ドラゴンの間近、真横まで落ちた俺は、間抜けな声をあげながら――

 その開いた口の中、牙の間に落ちる。


 そして、手に持ったナイフを突き出す。

 それを喉奥へと腕ごとに刺し込む。


 落下により溜まった重力加速度。

 そのエネルギーの全てを載せて、ナイフをブチ込む。

その刃先を、肉の中へ。



「うぐ――ッ!」



 腕の骨が折れる感覚。

 それとは別に、確かな肉の感触。

ナイフの先が、刺さっている。

敵の血肉を抉っている。


 だが、十分ではない。



「まだ……浅い……」



 至近距離、炎の熱で視界が揺れる。

 ドラゴンの口の中で、俺の真近くで、炎が揺れている。

白竜ヤツが溜めた殺意が、そこにあった。


 殺意の塊が、そこにあった。



「……かッ……ハッ――」



 喉が焼け尽きそうで、鼻の中が焦げ臭い。

 死が臭っている。一寸先に、死が漂っている。

それでも、その更に先、救われる命があるのなら――



「――……勝たなきゃ」



 俺は精一杯に、折れた腕を押し入れようと力む。

 全力の両手で、その先のナイフを刺し入れていく。


 あと少し――

 あと少しで、脳天までブチ抜ける。

いや、ブチ抜いてやる。


 ……この俺から、全部奪おうとしやがって。



「奪ってやる。この俺が――ッ!」



 狂気に支配されかけた。


 その瞬間、赤が晒される。噴き出す。

 俺はやめずに、剣の柄を押す。刺し込む。


 右の頬に赤い液が噴き付けた。

 だが、そんな事は気にならない。



『――ガッ……』



 白目を剥くドラゴン。

 俺は構わずに、その喉奥へと柄を押し続けた。


 刺し込み続けた――奪い続けた。

 命を懸けて、命を奪うのだ。


 しかし、その生命力はゴキブリが如く。

 竜は口の端に――小さな笑みを浮かべていた。



『これは……大いなる過ちだ――"我ら"の敵め』



 女の声。

 小さな声で、そう呪いを響かせた。

そうして、ほくそ笑むと力尽きた。


 命を果たした、"彼女"は。



【エンシェント・ドラゴン討伐達成! 経験値12000を獲得】

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