第12話 【強奪】;ハルバーズ


【エンシェント・ドラゴン討伐達成! 経験値12000を獲得……レベル75に到達】



 機械音声が響いた。

 その音の意味する所は何か?


 そのを問いを考えて、解く必要があった。

 その為に、まずは頭に落とし込む必要があった。

けれど、それより先に、“落下”が始まった。

物理的な落下だ。


 力尽きたドラゴンが、そらより落ちる。

 白き亡骸が、湖の上に落ちる。

湖面に張られた氷の上に落ちる。


 カプラの張った氷の盾。

 それが間近に見えた。

刹那、その一瞬に


 磨かれた鏡面みたいな氷の盾。

 それが陽光の赤と共に、白き竜を反射する。

竜の上の――異常者ヒーロー諸共に反射する。


 黒髪に青い瞳の美少年。

 そいつが反射して――一瞬に見えた。


 そいつが誰か、一目では分からなかった。

 だが、その浮かべたキモい笑みで分かった。



「へっ――」



 そいつは俺だ。

 それは暗黒微笑あんこくびしょうってヤツだ。


 俺の転生後の姿が、反射していた。

 キモさ共々、見えていた。


 姿が変わっても、中身は変わらない。

 本当に、仕方ない奴だ。



「と……うわわっ――?!」



 そして、落下。

 妙に考えていた俺が落ちた。

白き竜と諸共もろともに落ちた。


 そいつの上、その牙が上に――俺は乗っていたのだ。

 乗っていたのだから、これは当然だ。


 戦闘そっちのけで他事を考えていたのだ。

 こいつはカルマだ。


 ドォン――という轟音。


 それはドラゴンが落ち、その白き巨体が氷の盾を叩き割った音――その轟音だ。

 その轟音が耳を突き刺した。

 かと思えば、ゴボゴボ――と水の音がそれを覆い消す。


 ドラゴンが湖に落ち、厚い氷を割った衝撃で、俺は投げ出された。


 氷の隙間から、湖の中に――投げ出された。



「……どこだ……カプラ……ッ」



 青黒あおぐろい水の中に、カプルの姿を探す。

 湖へと先に落ちた、ケモ耳少女の影や形を探した。

 その時だ――



【A《メイン》スキル起動:強奪ハルバーズ



 頭の中、声が響いた。

 それは聞いた事のある人工音声だ。

 この世界で目覚めた時にも、聴こえた声だった。


 その声が聴こえてから、すぐに異変が起こる。



「何……だ……?」



 湖の中を煙みたいに揺蕩たゆたっていた、生々しい赤――ドラゴンの骸から滴った血液が、俺を突然に取り囲む。

 取り囲み、俺の中へと侵入する。侵食する。



「ぐッ……」



 そのせいで、息が出来ない。


 生暖かい感覚が背筋を伝い、肺の中に溜まる。

 目の前を一杯の赤が満たし、視界を血色に染め上げる。



【対象βベータから、13個のスキル強奪に成功】



 今、なんて……?


 機械音声が発した言葉に耳を疑う。

 その言葉の意味は何なのか。


 そんな思考を、それが掻き消してしまう。



「キリヤ――ッ!」



 それは叫び。


 その叫びが冷たい水中を貫き、俺の耳を撃ち抜いた。

 それは、美少女の美声だ。


 それが鼓膜に着弾して、神経を伝って、脳に火を点けた。


 その次、視界から赤が消え去る。

 俺の世界は、銀色に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る