第16話 堕としモノ。呪いを寄せる物。


 轟音と土煙。

 その音の発生源は、落下物だ。


 “何か”が落ちてきた。



「今度は何ッ!?」



 今度は、カプラの悲鳴が轟く。

 彼女が俺を引き剥がして、跳び回る。


 オロオロと歩き回る。

 その頬に、少し赤みが差している。



「訳わかんない! 訳わかんないわよっ!!」



 カプラの動揺。

 その要因は“死体”だ。


 ――ドォン! と言う音。

 辺りを一瞬で染める土色。


 そんな轟音と土煙の発生源。

 それが死体だったのだ。

その死体が、空から落ちてきた。



「これは……俺が殺したドラゴンだ」



 ドラゴンの死体。

 俺が喉奥をぶち抜いたドラゴン。

その後、湖へと一緒に落ちたドラゴン。


 その死体を、俺は【白光イクリクス】で吹き飛ばした。

 ヤツから盗ったスキルで、空に打ち上げた。


 爆発をスキルで起こしたのは、偶発的。

 死体を“飛ばした”自覚は無い。


 けど、そうだろう。


 推測して、推定した俺。

 その目の前に、新たな飛来物が落ちた。

今度の物はずっと小さい。鈍色の刃だ。



「あぶね」



 それはナイフだ。

 ドラゴンの喉奥に突き刺したナイフだった。

それが落ちてきて、目の前の地面に刺さったのだ。


 爆発の弾みで外れたのだろうか。

 あの"爆音"が響いた、爆発の弾みで。



「うわ……そうか。まずいな」


「……今度は何?」



 さっきと同じ台詞を、囁くように言うカプラ。

 そんな美少女と目を合わせて、静止する。


 まずい。

 スキル発動の時の、あの“爆音”。

カプラの泣き声、叫び声。


 それでもって、今度はコレだ。

 ドラゴンの死体が落ちた音。

その“轟音”と衝撃。


 俺たちは、大きな音を出し過ぎた。



「カプラさ、まだ走れる?」

「え」



 差し込む陽光の中、遠くの茂みが揺れる。

 その茂みの中から、緑色の化け物が現れる。

小さな緑色の人型モンスター。ゴブリン。


 イボだらけの腕に、棍棒を持っている。

 それが大量にいる。

ざっと見ただけで、50はいる。


 他には、水色のスライム。

 他にも、兵士の装いをした骸骨共。

それぞれ40。まるで軍勢だ。


 この軍勢は引き寄せられた。

 俺たちの出した音に惹かれたのだ。


 しかも、最悪なのが、その配置。



「囲まれているんだ、俺達」



 まずい。まずすぎる。

 最悪だ。



「嘘でしょう。まだ終わらないの……?」



 もっと最悪なのが、右腕についての事。

 俺の右腕――その利き腕が折れたままだ。

そして、武器の事。



「カプラ、武器は持ってる?」

「……ロングソードはあげたじゃない」

「他には?」



 無言で首を横に振るカプラ。


 それを見ると、俺は息を一つ吐く。

 それから、ドラゴンの死体に目を向ける。

 その巨体の脇腹には、件のロングソードが刺さっていた。刺さったままだった。


 他の武器。

 俺たちが使える武器と言えば、さっき落ちてきた地面のナイフ。

 そして、もう一つは、カプラのスキル。



「もう一度、【月氷冷ハネヴマ】は撃てるか」



 俺がそれを聞くと、カプラはうなだれる。

 だらんと肩を落とす。



「私のスキル、私の【月氷冷ハネヴマ】……」



 カプラは囁くように繰り返す。

 目を細めて、恨めしそうに。



「アレは、ゴミスキルよ」

「そんな事ないだろ」



 カプラは黙って首を振る。

 それから、弱々しく台詞を続ける。



魔力MPの消費量がね、膨大すぎるの」

「……ちなみに、どれくらい?」

「一生に一度しか、スキルを撃てないってくらい」



 一生に一度?

 何を言っているんだ。

RPGなら、MPマジックポイントなんて……――



「一生に一度……? 魔力なんて、待てば回復するだろ?」

「何言ってるのよ。魔力は使えば、二度と戻ってこない。回復なんてしないわよ」



 なんて事だ。

 こいつはクソゲーじゃないか。

この異世界、仕様がクソ過ぎる。

クールタイムの件と言い、クソクソのウンコである。

ゲームなら即電源オフにして、レビューに星1を入れてやる所だ。



「それに、あのスキルは十分な水が無いと使えない」



 見渡す限りの焦げた大地。

 そこに、湖の水は残っていない。

代わりに、見渡す限りを、敵共が埋め尽くしていた。


 それを見て、カプラは肩を落とす。



「もういいの。逃げて」



 それから、ぐしゃぐしゃの顔で笑う。

 カプラは、精一杯に笑ってみせる。



「あなただけでも」



 彼女は放っておけない。

 彼女に対して、俺は責任がある。

大変な責任がある。



「ダメだ」



 一生に一度しか使えないスキル。

 そんなものを使わせたのなら、尚更。

大切なものを使ってもらったのだ。


 それに戦闘での、あの“活躍”。

 彼女がいなければ、俺は死んでいた。

負けていた。


 今や、俺にとっての彼女は――



「ゴミなんかじゃないよ」

「え」

「君は“大切”だ。俺にとって」

「……ええ!? それって――」



 三匹のゴブリンが近付いて来ていた。

 それは先駆け、偵察隊、斥候兵。


 こいつらの後から、他の化け物共も襲い掛かってくるつもりだ。


 こいつらを殺さねば、殺される。

 それも上手く殺さなければならない。

後に構える敵勢の戦意を削がなければ。


 三匹のゴブリンの内、先頭の一匹が棍棒を掲げた。

 その一匹のみが、攻撃の準備をしている。


 他の二匹は、ソイツを先頭に、一歩後ろに下がる。

 一歩後ろから、ついてきている。

二匹は、棍棒を片手に持っているが、その先を下に向けている。



「いっちょ前に、布陣フォーメーションなんて組むなよ。化け物モンスターが」



 俺は小さく呟き、苦笑いして、想う。 


 絶対に生き残ってやる。

 ここまで、やったのだ。



「言っただろ……――カプラ」



 屈みながら、俺はそう言う。

 無事な左手で、地面のナイフを引き抜く。


 身体の中に、“新たな力”を感じながら。



【使用可能スキル:1件】



 こうなったら、モノは試しだ。

 俺は念じて、準備する。


 ついでに、自信をうそぶいてみようか。



「俺を信じろ」



 迫ってくる、三匹のゴブリン達。

 その内、一体が飛び掛かる。

棍棒を掲げていた、あの先頭の一匹だ。

思っていた通りだ。


 その一匹に、俺は小さなナイフを向ける。


 その小さな刃が――陽光を反射した。



「【Eスキル――】」



 次に、飛び散る赤。

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