第7話 攻略のカギは……


「どぉおおおおおりゃあああああああああ!!!」



 その合図一声、その号砲一発。

 それを皮切りにして、俺は跳んだ。

カプラの手を引っ張って、飛んだ。


 ドラゴンへと飛びついた。

 その腹に、しがみついた。

それから、ロングソードを脇腹に突き刺した。


 幼き少年が、重い長剣を突き刺せた。

 それは、カプラの助力のお陰だ。



「くッ――!」



 剣を握る、その俺の右手の上に、カプラが左手を載せていた。


 ――ギィイアアアアァアアァァァ――ッ!!


 金属同士がこすれ合うような、不快な音。

 身の毛のよだつ声。


 それを上げて、空中へと飛び立つドラゴン。

 苦痛から逃れようと、闇雲に飛び出す。

時折、炎を噴きながら、乱れ飛ぶ。


 俺たちは、そのドラゴンにしがみついた。

 ただ必死に、ただ力の限りに。


 俺は、左手にてカプラを引き寄せる。

 そして、右手にて長剣を握る。

その柄を握り締める。


 血が溢れて滑りそうだが、その為にマントを巻いたのだ。

 このマントのの役割は、滑り止めだ。


 俺は、剣をしっかりと掴む。

 掴んで、少し抜いたてみたり、深く刺してみたりする。



「やだ! この人、何してんの!?」



 別に遊んでいる訳ではない。

 

 俺が刃を肉から少し抜く。

 すると、ドラゴンの痛みが和らぐ。

結果、ヤツは真っすぐに飛ぶ。双月を背にして。


 俺が刃を深く刺す。

 すると、ドラゴンは痛みが増す。

結果、激痛の余り、カーブを描いて飛び出す。


 これでドラゴンを操縦する。

 操縦が出来ているつもりだ。

本当に、気持ち程度しか操れないのだ。


 だから、目的地に着けたのは俺のせいではない。



「あったな――青い湖だ」



 俺は目的地を見つける。


 1キロメートルほどの、それなりの大きさの湖。

 転生直後、深き森の合間に見た、青い宝石。

それが近付いて来ていた。


 ドラゴンもあそこが目的地なのだ。

 あそこなら、邪魔な木も無い。

ちょうど良い狩場だ。


 獲物だけを、炎のブレスで焼き殺せる場所。


 そう思うだろう。

 そうだと分かっていた。


 笑みが、零れそうになる。

 それを、俺は慌てて隠す。



「あの湖なら、高所からでも着水できる」

「……へ?! 無理じゃない!?」

「信じろ」

「何を根拠に?!」



 高度が下がってきた。


 落下物に対して、あまりに高さがあり過ぎると、水はクッションにならない。

 それは知っている。


 けれど、高度は、かなり下がってきている。

 大丈夫だ。

死にはしない高さになった。



「まあ、足を折るくらいだろ。大丈夫。死なない」

「大丈夫……じゃないわよッ。適当言ってたら殺すから!」

「え」



 その後、一際に大きく声を張り上げる。

 決して、何かを誤魔化す為ではない。



「よーし。10、心の中で数えろ! そしたら、手を離すぞ」



 俺は、横目に竜の瞳を見る。



「一緒に!」



 高度は、さらに下がっていく。

 ドラゴンの視線は、俄然、前を向いている。

こちらを見ていない。

 

 見る余裕がないのか。

 いや、これは――フリか。



「10……9……8……」



 このドラゴンは賢い。

 風を起こして、葉影に隠れた俺たちを暴いた時に、それは分かっている。

あとは、その賢さがどれほどか。

それが成功のカギだ。

この策のカギだ。

この賭けのカギだ。


 

「7……6……5……」



 カプラが唾を飲む音。

 その音が、やけに鮮明に聞こえる。



「4、3、2、1、0!」

「はやっ!」



 カプラが手を離す。

 灰色の長髪が、燃えるようにはためく。

羊に似た美少女が空を落ちていく。


けれど、俺は4秒……――――

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