第14話 吠える。


 ドラゴンのスキルを継承した。

 強奪した。


【Lv.1白光のクールタイム、残り8760時間】


 そこで機械音声が告げた、その情報。

 その仕様を聞いて思わず、吐きたくなる。


 ゴミみたいな言葉。

 悪態を吐きたくなる。

けれども、グッと堪えた。


「……バ……カスが」

「は」



 これでも堪えたつもりだ。


 クールタイムとは何か?

 それはゲーム用語だ。

特にRPGにおいて、馴染み深い用語である。


 ゲームにおいて、プレイヤーがある攻撃技スキルを行う。

 その後すぐ、連続して、再び同じ攻撃技を行おうとする。


 だが、すぐには、攻撃技それを使う事は出来ない。

 同じスキルを使うには、少し待つ必要がある。


 この待ち時間を、クールタイムと呼ぶ。

 つまり、クールタイムとは、スキルの再使用可能までの時間だ。


 俺は呟く。小さな声で呻くように。



「クールタイムが8760時間って事は……」



 1日は、24時間。

 1年が、365日。


 8760時間を24で割る。

 その問いの答えは、365日。


 クールタイムは、つまり1年間。


 1年間、俺はこのスキル“白光”を再使用できない。

 1年間もの間、封じられる。


 他にも使えるスキルがあるとは言え……。


 このスキルの使い勝手は最悪だ。

 もはや、こいつは――



「ゴミスキルじゃねえか! このカス――ッ!」



 突然、俺は吠え声を上げる。

 大声で悪態トキシックを吐く。

コレは、ゲーマーとしての悪い癖だ。


 カプラが身体をびくりとさせる。


 当然だ。仕方ない。

 突然、隣りの少年が吠えたのだ。

俺が怒ったとでも思ったのだろうか?

 

 だが、違う。

 本気で悔しがっているとか、何か貶しているとか。

今の俺は、そういう訳ではないのだ。


「あ、ごめ……」


 この吠えは口癖。

 ゲームでちょっとした理不尽を感じると、つい出てしまう口癖。

ただの反射みたいなモノだ。

治すべきだろうけども。


 本気で、そう思っている訳でもない。

 そう伝えようと思ったのだが――


「ひ」


 カプラは怯えていた。

 本気で怯えていた。

何かに驚き、怯えていた。


「あなたまで言うの? そんな事を……」


 様子のおかしなカプラ。

 彼女の反応は、ただの驚きに留まっていなかった。

悲しみに、失望に――

怒り。


「私を信じてくれた。そんなあなただと思ったから……ッ!」


 次は、俺がびっくりする番だった。

 今度は、カプラが吠えていた。

金の瞳が燃える。


「だから、命を託したのに!」


 燃える瞳が迫り、俺は身を引く。

 本当にびっくりだ。

何が彼女を怒らせたのか、分からない。


「そんな事を言うなんて。あなたまで――」


 カプラは、燃える金をカッと見開く。

 羊が如き灰色の長髪を振り乱す。


「ギルド長や聖者共と同じ、台詞クソをッ!」


 美少女が、俺に掴みかかる。


「私は――ゴミスキルじゃないッ!」


 美少女カプラが吠えている。

 確かな声で、歯を剥いて。


「私はゴミじゃない――ッ!」


 魂を載せていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る