第五十七話
一柳は皆を連れて、折り紙の塔へ入った。そして一階の入り口から見て右側のガラスケースを指差して言った。
「これです」
そこには横幅が一メートルほどで、翼を広げたカラスの折り紙があった。
新田は思わず聞いた。
「え? 先生、まさかこれが飛ぶんじゃないでしょうね?!」
「私の考えが正しければ、これは飛びます」
「いやいやいや、これは折り紙ですよ! 飛ぶ訳がないじゃないですか!」
一柳は人差し指を立てて、聞いた。
「では一つ聞きましょう。カラスは飛びますか? 飛びませんか?」
「そりゃあ、カラスは飛びますよ」
「それじゃあ、カラスに似せて折られた折り紙は飛びますか? 飛びませんか?」
「いや、それは……。でも、そんなバカな! 折り紙が飛ぶなんて、あり得ません!」
「それでは羽ばたきをする、折り紙の鳥を知っていますか?」
新田は混乱する頭を、どうにか静めて答えた。
「はい、何か聞いたことはあります……。でも……」
「もう一つ聞きたいんですが」
「はい、何でしょう?」
「つまり紙でできたものは、空を飛ばないと言いたいんでしょうか?」
「まあ、そうですね……」
「それなら凧はどうでしょうか? あれは風を受けて飛びますが」
「え? いや、そ、それは……」
「それと決定的なことを言わせていただきます」
新田は不安そうな表情で聞いた。
「え? 何ですか?」
一柳は冷静に説明した。
「一昨日の夜のことです。私の部屋から、この塔を見ている時、音がしましたよね?
『バサッバサッ』っと。新田さんは鳥の音じゃないかと言っていましたが、これが飛んでいたんじゃないでしょうか」
「確かにそんな音がして、そんなことを言いましたけど……。いや、でもそんなバカな?!」
するとガラスケースの横にあったコントローラーを手に取り、一柳は言った。
「論より証拠。実際にやってみましょう」と操縦した。するとガラスケースの中のカラスは『バサッバサッ』と羽ばたき上昇した。
皆が驚いた。
「と、飛んだ! 本当に飛んだ!」
「そんなバカな!」
「あり得ない!」
一柳は説明をした。
「簡単なことです。野上さんは以前、電機メーカーに勤めていてモーターの設計を担当されていました。それなら市販されている小型のモーターを改造することも出来たでしょう。
高速で回転するモーターを低速で回転するように改造し、モーター二つを折り紙のカラスの胴体部分に入れます。そしてモーターに円盤を付けて、それと折り紙のカラスの翼の先端部分に針金で、つなぎます。
そうするとモーターの回転運動が、翼の水平運動になります。つまり翼が羽ばたくようになるんです。これで折り紙のカラスは、飛べるようになるはずです。
いや、今のを見ていただいた通り、飛べます。あとはドローンの部品を使い、コントローラーで操縦が出来るようにすれば、さっき見たように夕夏さんの部屋の窓際に、部屋のキーを置くことも出来るでしょう。
そして永瀬さんの話では、夕夏さんの部屋の窓の真下に足跡があったそうです。それはおそらく、そこで折り紙のカラスを操縦した時に付いたのでしょう。そしてこれが出来るのは、折り紙のカラスを作った野上さんしかいないでしょう」
皆が野上を見た。
野上は作り笑いを浮かべながら答えた。
「確かに、そうです。その折り紙のカラスは、そのコントローラーで飛べます。そういう風に改造しました。それに確かに、それを使えば夕夏の部屋を密室状態にして、他殺を自殺に見せかけるといったことが出来るでしょう。
しかし忘れていませんか? この塔には誰も入った足跡が無かったことを。この塔に入ることが出来なければ、その折り紙のカラスを飛ばすことも出来ないでしょう?
つまり夕夏は自殺したとしか考えられないんですよ!」
一柳は、あっさりと答えた。
「ああ、それですか。ご心配なく。その理由もちゃんと説明がつきます」
野上は取り乱した。
「な、何?!」
「それでは説明いたしますので、ちょっと移動していただきます。皆さん、私についてきてください」と、一柳は折り紙の塔を出て歩き出した。
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