第五十六話

 午後四時。押谷警部は少し、ぶぜんとしていた。


「何ですか一柳さん。一応、永瀬に呼ばれたから、きたんですが私は長野県警本部での仕事もあるんですがね」

「そうですか、それは申し訳ありません。でも、この事件が解決すれば仕事が一つ減るのではないでしょうか?」

「な、事件を解決させる?! これは自殺じゃないんですか? 他殺なんですか? 犯人がいるんですか?」


 一柳は、ゆっくりと言い放った。


「はい、私の考えが正しければ、夕夏さんを殺害した犯人がいます」

「うーむ、分かりました。取りあえず話だけでも聞きましょう」

「ありがとうございます。あ、その前に一つ確認してもよろしいでしょうか。

 野上さん、あなたは夕夏さんを愛していらっしゃいましたか?」と押谷と同じく、この場に呼び出されていた野上に聞いた。


 一柳と新田は、ここ折り紙の塔の夕夏の部屋の真下に、押谷、永瀬、野上、岩佐を呼び出していた。


 野上は悲痛な表情で答えた。


「え? もちろんですよ! 愛していましたよ、心の底から!」

「でしょうね。でなければ認知症の方を、二年半も世話が出来るはずがありません」

「分かっていただければ、幸いです」


 一柳は永瀬の方を向いた。


「では今度は永瀬さんに伺いたいんですが、よろしいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」

「夕夏さんの部屋にあったノートに書いてあった『死にたい』という言葉。あの筆跡は夕夏さんのものでしたか?」

「はい、そうです。筆跡鑑定をした結果、夕夏さんのものだと判断されました」


 一柳は静かに、告げた。


「今のお言葉で、事件は完全に解決しました」


 押谷は驚いた。


「え? どういうことですか、一柳先生?!」

「はい、説明をする前に一つ、実証しなければいけません。永瀬さん、頼んだことは、していただいたでしょうか?」

「はい」と永瀬は答え、無線に話しかけた。


「こちら永瀬。聞こえていたら窓から、手を振ってください」


 すると鑑識の作業着を着た男性が、夕夏の部屋の窓から身を乗り出して手を振った。


一柳は満足して、告げた。


「それでは実証を行いましょう」と、岩佐のドローンの水平に突き出ている突起物に、夕夏の部屋のキーに開いてある穴を刺した。

 よし、これでドローンが傾けば、キーは落ちるはずだと思った。


「これで良し、と。それでは岩佐さん、よろしくお願いします」

「はい」と岩佐は、コントローラーを操作した。するとドローンは『ブーン』というモーター音を発生させ上昇した。


 一柳は聞いた。


「ドローンの操縦は、難しいんですよね?」

「はい、そうですね。素人の方が操縦するのは、無理だと思います」

「でしょうね」と、一柳がドローンを見るとそれは、夕夏の部屋の高さまで上がった。


 一柳が再び頼んだ。


「それでは岩佐さん、お願いします」

「はい」と操作するとドローンは、少し傾いた。そしてドローンは下降を始めた。


 押谷は聞いた。


「ちょっと一柳先生、これは一体、何なんですか?」

「少々お待ちください、押谷警部。永瀬さん、では確認してみてください」


 永瀬は

「はい」と返事をして、無線に話しかけた。


「鑑識さん、窓際のスペースは、どうなりましたか?」

「はい、この部屋のキーがあります。さっきドローンが置いていきました」


 それを聞いて押谷は驚いた。


「な、何ですって?! そんなことが本当に出来るんですか?!」


 一柳は冷静に答えた。


「驚くのも無理はありません。しかし、ご覧のとおりです。こういう方法だと密室を作ることが出来ます」


 押谷は

「うーむ」と、うなった後、続けた。


「すると犯人は岩佐さん、なのでしょうか?」


 岩佐は驚いた。


「え? 僕が犯人? 何の事件の?!」


 一柳が答えた。


「お待ちください、押谷警部。岩佐さんは犯人ではありません。

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