第四十八話
そのままスマホの立体映像で紅白を見ていたら、午後十時に零が言った。
「ちょっと疲れちゃった。充電しようかしら?」
「え? 大丈夫か? そうだな、明日の一月一日の朝に初詣に行くから、そうした方がいいかも」
零は
「うん、そうするわ」と答えると、零用のベットで横になった。
二千七十一年一月一日、午前五時。Aは零と初詣にきていた。Aは、零の人肌の温かい手を握りながら考えた。二千七十年の日本の技術はすごいな、と。
数年前まで人間型ロボットの手は冷たかった。皮膚にはシリコンを使っていたが、人肌の温かさまでは再現できなかった。しかし二千七十年に発売された、女性型生活支援用人間型ロボットの零は、新開発されたシリコンを使っていて人肌の温かさまで再現していた。
Aは零がちゃんと動いているので、安心した。紅白を見ている時、零が『ちょっと疲れちゃった。充電しようかしら?』と言ったからだ。
零は一日に四時間、零用の非接触型充電装置が内蔵されている、ベットで充電する。すると零は二十時間、活動できる。だから睡眠四時間というところだろうか。
そしていつもは午後十一時にベットに入り、午前三時に起きてAの昼の弁当を作り、朝ご飯の用意を始める。
なのにさっきは午後十時に『ちょっと疲れちゃった』と言ったから、ちょっと焦った。まあ、充電したらちゃんと動くし、一時間くらいの誤差はたまにはあるか、とも考えた。
そしてAは眼鏡フェチだったので、零に銀縁メガネをかけた。
でもAには一つだけ不満があった。それは零がいても一人で、ご飯を食べなければならないことだ。零は人間型ロボットだから当然、ご飯を食べない。だから零はいつもAの分、一人分だけを作る。昨夜のすき焼きのように。
だからできれば新しい人間型ロボットには、食べ物を体内に入れる機能を付けて欲しいとAは本気で思った。
Aは、さい銭箱の横に設置されたQRコードを読み取り五千円を入金して、願った。零は優しいから人間が人間型ロボットにプロポーズするという、ままごとに付き合ってくれた。
しかし早く人間と人間型ロボットが本当に結婚できる時代になりますように、と。
●
新田は思わず叫んだ。
「何なんですか、先生! このぶっ飛んだ小説は?! レベルが高すぎます!」
一柳は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「はい、電撃社では、小説のジャンルは問いませんよね。それで考えたんですが、私は新しいジャンルに挑戦しようと思います。SFM、つまりサイエンス・フィクション・ミステリーです。
宣言しましょう、新田さん。私はこのSFMで天下を取る! もう、そこそこ先生とは呼ばせませんよ! ハーハッハッハッ!」
新田は真顔で、つぶやいた。
「こ、壊れた。一柳先生が遂に壊れた……」
一柳は狂気を宿した目で新田を見つめ、聞いた。
「さあ、どうですか新田さん、この小説の感想は?!」
新田は少し考えてから答えた。
「うーん、取りあえずこの『Aの推理ファイル その三』に登場するAは、『Aの推理ファイル』と『Aの推理ファイル その二』に登場するAとは、違うっていうことでしょうか?」
「はい、『Aの推理ファイル』と『Aの推理ファイル その二』に登場するAは同一人物ですが、『Aの推理ファイル その三』に登場するAは別人です」
「うーん、それってちょっと、ずるくないですか?」
一柳は説明した。
「ずるくならないように、『Aの推理ファイル その三』は未来の話ですから今までのAとは違う、と思ってもらえるように書いたつもりです」
「例えば、どこですか?」
「はい、まずは冒頭です。Aが自分の席で電子タバコを吸っている描写がありますよね。『Aの推理ファイル』と『Aの推理ファイル その二』では喫煙室で吸っていたのに。そこで読者に、あれ、何か変だな、と思ってもらいたいです」
「うーん、他には?」
「はい。課長が『Aさんが現場に行くことは、私が支店長に報告しておきます』というセリフがありますが、どう考えてもおかしいですよね。支店長ではなく署長なら、まだ話は分かりますが。
それに『Aの推理ファイル』と『Aの推理ファイル その二』ではAは出勤したと書きましたが、『Aの推理ファイル その三』では出社と書きました。警察署へ出社するのは、おかしいと思ってもらいたいです」
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