第四十九話

 一柳は説明を続けた。


「あと、JとKが事情を聞かれる場面で、三人がやたらとスマホの機能を使いますよね。今でも出来るとは思うんですが、それをしている人は、あまり見かけません。

 更にとどめは、AがLにスマホの画面の警察手帳を見せていました。こんなことは現在ではあり得ませんよね。ではそれはいつか? 過去のはずがありません。過去にはスマホなんてありませんから。現在、過去でもない、とすると残るのは未来。

 そうです、この小説は、未来が舞台なんだと気づけば、それでいいんです。未来には新幹線よりも速い高速鉄道があるはずだ、と思いつけばそれでいいんです」


 新田は聞いた。


「なるほど……。ところで零は人間型ロボットだったんですね。それにAが恋をしてしまうというのは、どうなんでしょう?」

「まあ、今でも二次元のキャラクターのファンになる人もいますからね。ロボットとはいえ三次元の存在になれば、恋をする人が出てきてもおかしくないと思うんですが。

 それに『彼女に恋したって、いいじゃない!』の歌詞も伏線だったんですが」


 新田は腕を組んで、うなった。


「なるほど。そう言われてみれば、そうかも知れませんね。うーん、斬新ですね……。

 いえ、SFMではなく、犯人と被害者が同性愛者というところです。うん、斬新ですね! そして萌えますね!」

「え? そこですか?」

「はい、そこです!」

「うーん、それじゃあ、この短編推理小説はどう評価しますか?」

「はい、男性同士の同性愛が、きっかけで事件が起きるのがすごく斬新です! 評価させていただきます! 我が電撃社が毎月発行している雑誌、電撃小説に載せてもらえるように、私が編集長に直談判します!」


 一柳は心の中で、ガッツポーズをした。そして思った。新田さん、



 一柳は思い出した。新幹線の中で新田が冷凍ミカンを買う時、座席にスマホを置いたのを。一柳は軽い気持ちで見てみた。新田さんは何を熱心に見ているんだろう?

 ツイッターとか、かな? と。だが違った。新田はスマホのアプリでBLマンガを読んでいた!


 一柳は、少しショックを受けた。新田さんが腐女子だったとは……。まあ、いいけどね。今、流行っているからね、BLマンガ……。と思った時、悪魔がささやいた。

 使える、これはきっといつか使える、と。


『Aの推理ファイル』がボツになった時、一柳は既に『Aの推理ファイル その二』のアイディアが出来ていた。しかし、これもボツになるかも知れない……。そこで考えた。


 BLを扱った短編推理小説を書いたらどうだろうと。そして『Aの推理ファイル その二』を書いた後、残った力を振り絞り『Aの推理ファイル その三』を書き上げた。

 その中で若い女性が高速鉄道の中でBLマンガを読み、更に冷凍ミカンを買う場面も書いたというのに。


 もしそれに気づいたら、新幹線の中で勝手にスマホを見たことを謝ろうと思っていたのに。どうやら新田さんは、男性同士の同性愛にばかり目が行ってしまったようだ。


 すると新田は、腕時計を見て提案した。


「一柳先生、そろそろレストランへ行きませんか? お腹が空いていませんか?」

「うーん、そう言えば少しお腹が空きましたねえ」

「それじゃあ、朝食を食べに行きましょう!」

「はい!」と一柳は悪い表情で返事をした。そして思った。これで長編推理小説を書かなくても何とかなると。



 ホテルのレストランで朝食を食べた後、一柳は提案した。


「それではもう一度、折り紙の塔へ行ってみましょう。私のカンが正しければ、新しい情報が手に入るはずです」

「はあ、そうですか……」と二人は、午前八時に折り紙の塔へ向かった。夕夏の部屋には見覚えがある二人がいた。押谷と永瀬だ。


 一柳は挨拶をした。


「やあ、押谷警部」

「あ、一柳さん。ちょうど良かった。ちょっと聞きたいことがありまして」

「はい、ひょっとすると私と新田のアリバイでしょうか?」


 押谷は目を丸くして驚いた。


「え? どうして分かったんですか?」

「簡単なことです。昨日、長野県警本部に検案を頼んでいたので、そろそろ結果が出る頃だと思いまして。

 当然、死亡推定時刻と死因が分かるころだと思いまして。ならこれからすることは一つ。関係者にアリバイを聞くことです」


 押谷は、うなった。


「うーむ、どうやら推理小説も書く作家というのは、嘘ではないようですな」

「はい。ただ、そこそこしか売れませんけど」

「そうですか……。ま、それはいいでしょう。とにかく、この件は自殺だと思いますが、念のために遺体の発見者である三人の方のアリバイは調べておきたいのです。

 一昨日の午後十時から午後十一時までの間、どこで何をしていたのか、伺いたいのですが?」

「一昨日の午後十時から午後十一時ですか……。すると、それが死亡推定時刻ですか?」

「そうです」

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