第四十七話

 そして、さ、マンションまでもう少しだ、頑張るか! と思った時、スマホが警報音を鳴らした。続いて女性の電子音声が響いた。


『気象省より連絡です。今から二十四時間以内に、関東地方で震度三の地震が起きる可能性があります。関東地方におられる方は十分お気お付けください。

 繰り返します。今から二十四時間以内に……』


 Aは思わず弱音を吐いた。


「おいおい、大丈夫だろうな。いろんなことが起こりすぎるぞ! 俺は無事にマンションまで、たどり着けんのか?! これはあれか、やっぱりフラグか? 俺は死んじまうのか?!」


 しかし五分後、Aは自分のマンションに無事に、たどり着いた。Aはマンションのドアの前でセキュリティシステムに、網膜パターンと右手の五本の指紋を読み取らせてドアのロックを解除した。部屋の中に入ると、零がキッチンで料理をしている後ろ姿が見えた。


 Aは、その背中に

「ただいま、零」と声をかけた。


 すると零は笑顔で答えた。


「あ、おかえりなさい。ごめんね、料理をしていて気づかなくて」

「いや、いいんだよ。それより今日の夕食は何?」

「うん、今日は和食なの。今までフランス料理やイタリア料理が続いたから、逆に新鮮かなって思って」

「なるほど、それは楽しみだ」

「うん、期待してて。ネットテレビでも見て待ってて」


「うん」とAはスマホを操作してテーブルの上に置いた。すると高さが五十センチほどの男女の立体映像が現れた。


 二人は話し出した。


「二千七十年も、残りわずかになりました。今年もいろんなことが、ありましたねえ」

「はい、当番組では二千七十年に起きたニュースを、ランキング形式で三十位から発表してきました」

「はい、それでは早速、行きましょう! 二千七十年、三十のニュースランキングの第一位は?!」


「ジャジャン! 月面基地で生活していらっしゃる方が、一億人を超えました! これは人間の数が百億人を超え、地球上で生活できる適正の人数をはるかに超えた人類の夢でした。国連は将来的には、十億人の方が生活することを目標にしています。

 更に月面基地で生活することが出来る技術は、火星での生活にも利用が出来ます。国連は今後三十年をめどに、火星での生活が出来るようにしていく方針です!」


 そうこうしていると、零が夕食を用意してくれた。メニューは、すき焼きが一人分だった。


 零は告げた。


「今日はちょっと、奮発しちゃった。でも大みそかだから良いかなって思って。どう?」

「うん、良いと思うよ。それじゃあ早速、俺は食べるからね」

「うん、召し上がれ」と零は一人分のご飯も用意してくれた。Aは、すき焼きとご飯を食べた。


 そして言った。


「やっぱり零が作るご飯は、美味しいなあ……」

「ありがとう、そう言ってくれるのが一番、嬉しいわ」

「それにもうすぐ、結婚するし!」

「そうだね、そうだったわね」と二人はキスをした。零の唇は柔らかかった。


 キスをした後、零は言った。


「ねえ、もうすぐ第百二十一回NHK紅白歌合戦が始まるわよ! 見ましょうよ! 今年やっと機声きせいさくらが出るの!」


 Aも感慨深げに返した。


「そうか、遂にNHK紅白歌合戦に人間型ロボットが出場するのか。今までも人間型ロボットを出場させようとしたけど、人間型ロボット反対派を考慮して出場させられなかったもんなあ……」


 零も少し、しんみりした。


「うん、そうよね……」


 Aは思い出して言った。


「あ、そういえば一月二日からの正月休みの旅行だけど、月面一周観光ツアーでいいよな? 種子島宇宙センターからロケットで行くやつ。本当は月面基地まで行きたいけど、そんな金ないし……」

「私は、それでいいわよ。Aと旅行に行くのは初めてだから、どこでもいい!」


 Aは思わず零を抱き寄せた。


「健気なことを言ってくれるじゃねえか。よし、決めた。今度の正月旅行は金をためて月面基地まで行くぞ!」

「そんなに頑張らなくてもいいのに~」

「いや、行く。何が何でも行く! もう決めた!」


 零は、うなづいて答えた。


「うん、それじゃあ期待しているわね!」


 そして第百二十一回NHK紅白歌合戦が始まった。機声さくらは紅組のトップバッターとして出場した。機声さくらは、目の色は赤色で髪は青色で、黄色のワンピースを着ていた。


「みんな、ありがとー! 遂に紅白に出ることが出来ましたー! みんなのおかげです! それでは歌います! 『彼女に恋したって、いいじゃない!』」と挨拶をして歌い始めた。


「人間型ロボットの~彼女に恋したっていいじゃない~WowWowWow~」


 Aは思った。いい曲だなあ。さすが彼女のデビュー曲にして、配信数が百万を超えた名曲だなあ、と。

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