第四十五話

 更に『富士』は、地球温暖化防止のため、無計画な森林伐採を防ぐために完全ペーパーレス社会を提案した。森林が二酸化炭素を吸収し、それにより地球温暖化を防ぐのが目的だ。

 ペーパーレス社会に対応するため、内閣は全国民にタブレットパソコンを配布した。そして総務省は完全無料Wi-Fiを提供した。この動きは、世界の先進国に広がった。

 その結果、二千七十年現在の地球の平均気温の上昇は一応、止まっている。



 電子タバコを吸い始めて約三十分経った頃、Aは課長に呼ばれた。

 中間管理職用AI搭載人間型ロボットの女性タイプ。Aは『AIなんだから愛さんで、いいだろ』と勝手に決めて呼んでいた。


 課長は告げた。


「先ほど新宿支店にLという男性が、『Mさんを殺した』と出頭してきたそうです。

 ご苦労様でした、Aさん。これでこの事件は解決です」

「了解っす、愛さん。それじゃあ、おつかれーっす」



 飯山支店を出たAは駐輪場へ行き、自分の電動アシスト自転車に乗った。そしてバッテリーが百パーセントまで充電されていることを確認した。今では、ほとんどの建物が自家発電が出来るようになっている。


 一番普及しているのが太陽光発電で、屋根はもちろん壁や窓にも太陽光発電パネルが設置された。そして建物内の家電はもちろん、電動アシスト自転車に充電出来たりもする。

 だが太陽光発電がこれだけ普及した理由は、透明な太陽光発電パネルが浸透したためだろう。これは建物の屋根や壁や窓に設置されても、外観を損ねることがないからだ。

 そのため、二酸化炭素を排出する火力発電所や危険な原子力発電所は無くなった。

 更に電気自動車も全面に透明な太陽光発電パネルが設置され、充電の必要が無くなった。



 Aはスマホのイヤホンを耳に入れて、音楽を聴き始めた。去年、遂に自転車にも自動運転用AIが搭載された自転車が発売されAは、ちょっと高いと思ったが、それを買った。

 飯山支店でもAI搭載の自転車を利用することを勧めていた。元警察だから自転車事故を起こすわけには、いかない。それを防ぐために自動運転用AIが搭載された自転車を有効活用するべきだ、というのが理由だった。


 二千七十年現在、自動車、トラック、バス、タクシー、バイク、電車、飛行機、船を人間が運転または操縦することは法律で禁止されている。現在は自動運転用AIを搭載した乗り物だけが道路を走ること、空を飛ぶこと等が許されている。


 自転車だけが唯一、人間が運転することを許された乗り物だった。

 しかし自動車やバイクの事故がほとんど無くなったのに対して、自転車の事故は一向に減らなかった。いや、自転車だけが唯一、人間が運転することが出来る乗り物だったので、様々な人が自転車を運転した。中には無茶な運転をする人もいた。そういうことも自転車の事故が減らない理由だろうと、思われた。

 そういう背景もあって、遂に自動運転用AIが搭載された自転車が開発、販売された。


 そして遂に、自転車免許証も無くなり、人間が自転車の運転を禁止する法律が出来るのではないか、という噂がネットでささやかれている。

 そのため五十年前まであった、セグウェイという乗り物が今、注目されている。今の法律だと、まだ人間が自由に運転が出来るからだ。



 Aがそんなことを考えていると、目の前に小学生くらいの男の子が飛び出してきて、スマホをAに向けて振った。

 しまった! 音楽に夢中になっていてスマホのゲームを起動させるのを忘れていた! と思ったが、もう遅かった。


 スマホから

「五十八のダメージを受けました」という女性の電子音声が聞こえた。


「ちっ」っと舌打ちをしてスマホのゲーム、『サムライ・マスター』のアプリを起動しようとしたが、やはり遅かった。男の子は再び、Aに向かってスマホを振った。


 再び

「五十四のダメージを受けました。勝負に負けました。二百七十四ゴールドを奪われました。回復アイテム『良く効く薬草』、属性アイテム『雷の魔石』が奪われました」という女性の電子音声が聞こえた。

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