第四十四話

 ある国を例にしてみると、その国で最も速い計算速度のスーパーコンピューターを

W.S.S.の一部にする。他のスーパーコンピューターは、新しいウイルスの感染予防に関するシミュレーション等に生かされる。

 そしてW.S.S.は分子動力学法を行って新しいウイルスの治療薬とワクチンの開発に貢献した。分子動力学法とは、原子並びに分子の物理的な動きを、コンピューターシミュレーションで解析する方法である。


 このW.S.S.は現在でも健在で新しいウイルスが発見され、安全保障理事会が『現在は、世界の平和及び安全が確保できない状況である』と認識した場合に、運用される。

 そして過去六回、新しいウイルスが発見された時に、W.S.S.が分子動力学法を行って新しいウイルスの治療薬とワクチンの開発に貢献した。



 そして話は変わるが結論から言うと、シンギュラリティは起きなかった。

 シンギュラリティとは遅くても二千四十五年までに、全人類が合わせた知能を超える知能を持ったAIつまり人工知能が誕生する。そのAIが自分よりも優秀なAIを作る。

 更にそのAIが自分よりも優秀なAIを作り、AIが爆発的なスピードで進化を続けて遂には人類に変わって文明の進歩の主役になるという、未来学上の概念である。



 しかし、別の予想外の出来事が起きた。そしてある意味、シンギュラリティは起きた。電機メーカーである春芝が二千四十五年に社運を賭けた法案提案用AI、『富士』の開発に成功したからだ。

 増え続ける日本の借金が原因で支持率の低迷に悩んでした当時の内閣は、『富士』に飛びついた。『富士』が最初に提案した法案が、警察の民営化なのに。

 その理由は、増え続ける日本の借金を減らすには、聖域のない経費削減が必要である。そして普通に考えたら絶対に民営化されない警察を民営化して内閣の本気を見せるべきだ、というものだった。


 もはや頼れるものは『富士』しかなかった内閣はそれを採用し、二千四十六年に警察を民営化した。

 その結果、警視庁は東京警察株式会社、大阪府警察は大阪警察株式会社、そして長野県警察は長野警察株式会社になった。


 更に警察庁は全日本警察株式会社となり、各都道府県の警察株式会社の株を、四十九パーセント取得した。各都道府県の警察株式会社の株を五十パーセント以上取得することは、法律で禁止されたからだ。

 しかし全日本警察株式会社は各都道府県の警察株式会社の筆頭株主となり、各都道府県の警察株式会社に一定の影響力を持った。


 更に国家公安委員会は、独立行政法人公安委員会になった。

 しかし内閣は、元は国の公安に関わる警察運営を司ってきた国家公安委員会が独立した独立行政法人公安委員会の、トップがいきなり民間人になったら不安だ、という理由で元法務大臣を3年間、取締役社長にした。


 そして全日本警察株式会社の株を百パーセント取得し、結果的には各都道府県の警察株式会社に大きな影響力を持つことになった。

『富士』は全日本警察株式会社の株も、五十パーセント以上取得することは法律で禁止するべきだ、と提案したが内閣はそれを無視した。


 それから三年後、独立行政法人公安委員会は、各都道府県の警察株式会社の経営が安定したとして、全日本警察株式会社の株を四十九パーセント取得することにした。

 しかし、やはり独立行政法人公安委員会は全日本警察株式会社の筆頭株主となり、結果的に各都道府県の警察株式会社に大きな影響力を維持することなった。



 飯山警察署は、長野警察株式会社飯山支店となった時に、徹底的な経費削減が行われた。

 まず人件費削減のため課長などの中間管理職は、中間管理職用AIを搭載した人間型ロボットになった。長野警察株式会社飯山支店では、女性タイプを採用した。


 そして捜査でかかった費用を経費で落とすことが禁止された。これに対しては捜査課の職員の基本給を十パーセント上げることで対応した。

 その結果、長野警察株式会社飯山支店の組織は、総務課、経理課、捜査課、個人宅・建物警備課、市内パトロール課、交通課、自転車免許証課で構成されることになった。


 総務課は、勤怠管理、契約書の作成・管理、コンプライアンス体制の整備等をする仕事を担当している。


 経理課は、日々の取引を会計データとして集計する仕事を担当している。


 捜査課は、警察に事件を解決してほしいという依頼者が現れた時、契約を交わして捜査する仕事を担当している。


 個人宅・建物警備課は、民間警備会社のバックアップをする仕事を担当している。

全国的に展開する民間警備会社は、全日本警察株式会社と相互の協力をすることで契約している。


 市内パトロール課は、市役所等と契約を交わして市内に不審人物、不審物等がないかパトロールする仕事を担当している。市民の道案内、困りごと相談にも対応するが有料である。


 交通課は、市内で交通違反をしている乗り物はないか、パトロールする仕事を担当している。


 自転車免許証課は、自転車免許の交付・更新を担当している。もちろん交付・更新時には手数料をいただく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る