第四十三話

 Aは仕方なく

「取りあえず、スーパーに、あんたが行ったかどうか確認させてもらう。スーパーの名前を教えてもらおう」と聞いた。


 そのスーパーへ行き、店長に訳を話して防犯カメラを見せてもらうと、確かに十二月三十日の午後一時三分に入店するLの姿が映っていた。



 十二月三十一日、午後四時。Aは自分の席で電子タバコを吸っていた。今回、Mを殺した人物はすぐに分かった。しかしMを殺したのは間違いだろうと想像するとAは、やりきれない気持ちになった。



 Aは長野警察株式会社、飯山支店の屋上へ行くと、スマホを取り出して電話をした。


「あ、もしもし。Lさん? 俺は、さっき話を聞いた、Aだ。え? ああ、ちょっと話したいことがあってな。

 俺は今回の事件を調べているうちに、あることに気づいたんだ。それはMさんを殺した犯人が誤解しているんじゃないかと。え? 誤解って何だって?

 うん、それは最近Mさんは仕事を覚えるために、同僚のKさんと残業をするようになった。


 でもそれはMさんが『もうすぐ結婚するから今まで以上に仕事を覚えたい』からだったんだ。

 うん、Kさんから聞いたんだ、うん。でもある人物は、それを聞いて焼きもちを焼いたそうだ……。うん、Mさんが残業をしだしたのは、別にKさんと仲良くするためではなく、仕事を今以上に覚えるためだったんだ……。


 それに俺の見立てでは、Kさんは上司のJさんと付き合っていると思う。わざわざ初詣に一緒に行くために一月一日から休みを合わせた、と思っている。

 うん、うん……。そうだな、罪は償ったほうがいいな。うん、うん、新宿支店に出頭することを、お勧めする。それでは、これで失礼」


 電話を終えるとAは思い出した。AはLと話をしていた時、こう言いそうになった。


『北陸新幹線って、あんた……。あんたは、いつの時代の人ですか?』と。


 二千七十年、現在、高速鉄道で走っているのは最高時速約七百キロメートルのリニアモーターカーだけである。それで東京から長野までは、約四十分で行けるようになった。だから午後一時に東京にいたLにも午後一時四十分には長野へ、くることができたので、アリバイは成立しない。


 余談だが現在は官民一体となって、最高時速千二百二十五キロメートル、つまり音速を超えるスーパー・リニアモーターカーを開発している。

 技術者たちは

『イギリス、フランス等が開発し千九百七十六年に運用が開始されたコンコルドの巡航速度は、マッハ2だったんだ。音速の二倍の速さで飛んでいたんだ。

 それを考えると約百年後の今の技術で、スーパー・リニアモーターカーが音速を超えられないはずがない、いや必ず超えて見せる』と息巻いている。



 それからAは自分の席に戻って、電子タバコを吸い始めた。取りあえず、やることが無かったので、スマホで今日のネットテレビの番組表を見ていた。するとCMが流れた。

『二千二十年から世界で猛威を振るった、新型コロナウイルス。その正体に今夜、迫る!』


 Aは心の中でツッコんだ。いやいや、五十年前のウイルスに今夜、迫られても。しかも大みそかの夜に迫るか? どんな番組なのか逆に興味が湧いてきた。

 それにしても新型コロナウイルスか。治療薬とワクチンが開発されて、とっくの昔に収束したウイルスだが。


 五十年前か……。五十年前の人が今の、二千七十年の今の日本を見たらどう思うだろう。取りあえず驚くのは容易に想像できる。


 取りあえず今の日本、いや世界では新型コロナウイルスが猛威を振るった、二千二十年のようにはならない。新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延を重く見た国連は、新しいウイルスが世界に蔓延した場合、それを『有事』と捉えることにしたからだ。


 きっかけは新型コロナウイルス感染症が収束してから、国連のある加盟国が声を上げたことだ。

『結局、国連は何もしてくれなかった。わが国では多くの感染者と死者が出たというのに。国連は世界の平和と安全を守る機関じゃないのか!』という声に多くの加盟国が賛同した。


 これを重く見た当時の国連事務総長は、国連憲章の変更を提案した。国連各国の平和及び安全の維持が確保できない状態に、新しいウイルスの蔓延を追加するというものだった。


 この変更は多くの加盟国に賛成され、国連総会で国連憲章は変更された。そしてそれから人間が戦うべき相手は、人間ではなく新しいウイルスになった。


 新型コロナウイルスが収束してから五年後に、新しいウイルスが発見された。そしてそれは世界中に広まった。しかし、その時の国連の対応は早かった。

 WHOが『この新しいウイルスは世界に蔓延しつつある』と発表した次の日に、安全保障理事会を開いた。そして、『現在は、世界の平和及び安全が確保できない状況である』という認識が採択された。更に安全保障理事会は、ワールド・スーパーコンピューター・システム、通称W.S.S.を提案した。


 それはまず、その時点で世界中で最も速い計算速度のスーパーコンピューターを、ネットワークの中心となるホストコンピューターとする。

 そしてそのホストコンピューターに、世界各国の最も速い計算速度のスーパーコンピューターを、高速ネットワークで接続する。そうして世界規模の高性能のスーパーコンピューター、W.S.S.を誕生させる。

 そしてホストコンピューターが、世界中のスーパーコンピューターに指示を出し計算をさせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る