第四十二話
Aは
「なるほど」と答え更に聞いた。
「多少、聞きたいんだが」
「はい」
「Mさんの働きぶりは、どうだった?」
Jが答えた。
「はい、働きぶりは良かったです。優秀な社員でした。それだけに残念です……」
「と、すると会社では問題は無かったと?」
「はい、全く問題はありませんでした……」
「なるほど、もう一つ聞きたい。最近Mさんに、トラブルのようなものは無かったかい?」
Kが答えた。
「そういえば最近、婚約者が焼きもちを焼いて困る、と言っていました」
「うん? それは、どういうことだ?」
「はい、結婚を控えたMは仕事をさらに覚えるため最近、僕とよく残業をするようになったんです。Mは言っていました。
『もうすぐ結婚するから、今まで以上に仕事を覚えたい』と。でも残業のことを婚約者に話したら焼きもちを焼かれて困った、と言っていました」
Aは興味を示した。
「その婚約者は、どこに?」
「はい、東京に住んでいらっしゃいます」
「名前と住所は知っているかい?」
「はい」と、Kはスマホのメールで、Aに名前と住所を送ってきた。
更にAは聞いた。
「すまないが、あんたたちは十二月三十日の午後一時から午後二時の間、どこで何をしていたんだい?」
Jが答えた。
「はい、私は工場で仕事をしていました。シフトの関係で休みは一月一日からなんです」
Kも答えた。
「僕も同じです。工場で仕事をしていました。休みはやはり一月一日からです」
「なるほど、分かった。ご苦労」と、Aは礼を述べて工場を出た。
そして高速鉄道に乗り、東京へ向かった。
高速鉄道では、前の座席に座っていた若い女性客二人が、はしゃいでいた。
「やっぱりBL漫画って最高よねー」
「うん、萌えるよねー」
「あ、すみません、冷凍ミカンをくださーい!」と女性客の一人が車内販売ロボットに声をかけた。
「四十分しか乗らないのに、よく食べるよねー」
「どうして高速鉄道に乗ると、冷凍ミカンを無性に食べたくなるのかしら? 人体の不思議よねー」
「何それ? うけるー」
Aは東京駅に着くとすぐにタクシーに乗り、Lの住所へ向かった。そこは新宿区の小綺麗なマンションだった。エントランスを通り、奥のエレベーターに乗り306号室を目指した。
306号室の前に立ち、インターホンを鳴らした。すると背の低い男性が出てきた。彼がLで、被害者Mの婚約者である。つまり同性愛者である。
二千十五年に東京都渋谷区で同性カップルを結婚に相当する関係と認め、『パートナー』として証明する条例が可決・成立した。
その後、地方自治体が同性カップルに対して、二人のパートナーシップが婚姻と同等であると承認し、自治体独自の証明書を発行する制度である、パートナーシップ宣誓制度が東京都世田谷区、兵庫県宝塚市等、全国に広がった。
そのため今では、同性結婚は珍しくも何ともない。
Aはスマホの画面の、警察手帳を見せて告げた。
「あんたがLさん? この度は婚約者であるMさんを失ってしまって、お気の毒です」
Lは無言で頭を下げた。
Aは聞いた。
「突然で申し訳ないんだが、あんたは十二月三十日の午後一時から午後二時の間、どこで何をしていたんだい?」
Lは戸惑った。
「え? そんなことを聞かれるなんて、僕は疑われているんでしょうか?」
「いやいや、こういう事件が起きた場合、関係者全員に話を聞くのが警察の仕事なんだよ。ぜひ、協力してほしいんだが」
「分かりました……」とLは考え始めた。記憶をたどっているようだ。
そして告げた。
「えーと、確か十二月三十日の午後一時は近くのスーパーに買い物に行きました。もちろん確認してもらっても構いません。
東京から長野へは、北陸新幹線では早くても一時間二十分はかかります。つまり午後一時に東京を出発しても長野に着くと、午後二時二十分になります。
そうすれば僕のアリバイっていうんですか、それが証明されたことになるんですよね?」
Aは戸惑った。
「北陸新幹線って、あんた……」
するとLは無言でAを、にらんだ。
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