第四十一話

 課長は告げた。


「Aさん、ちょっときてください」


 Aは思わず

「やれやれ」と、つぶやき課長の前に立った。


「何の用っすか? あいさん?」


 Aだけが課長のことを、愛さんと呼んでいた。


「先ほど110番通報がありました。事件のようです。内容はMさんを河原で見つけたが死んでいる。殺されたのだとしたら犯人を捜して欲しい、というものでした。

 Jさんという方からの依頼です。直ちに現場に直行してください。いつも通り捜査が終了してから、捜査料金を請求します。

 Aさんが現場へ行くことは、私が支店長に報告しておきます」


 Aは右手を左手でつかみ、ごねた。


「うっ、仕事をしようとすると、この右手に封印されたメカニック・ブラック・ドラゴンが暴れるんすよ……。

 この、太陽系を三日で消滅させることが出来る能力を持つ、メカニック・ブラック・ドラゴンが……」


 課長は、いつも通り穏やかな笑顔のまま聞いた。


「気は済みましたか、Aさん?」


 さすがは課長。そして女性タイプ。Aがどんなにバカなことを言っても、冷静に対応する。


 Aは敬礼して、答えた。


「了解したっす。現場に直行するっす、愛さん!」



 Aはパトカーから降りて、白い手袋をした。現場は河原だった。見ると男性が仰向けに倒れていた。

 Aは両手を合わせると、ざっと遺体を観察した。左胸にサバイバルナイフが深々と刺さっている。そしてシャツは血だらけだった。死因は出血死か……。

 ふと顔を見ると、Mさんは整った顔立ちをしていた。Aはポケットからスマホを取り出して、電話をした。


「もしもし、Aです、お疲れ様です。検案と鑑識作業を、お願いしたいんでが……。

 はい、はい、よろしくお願いします」


 Aは考えた。これで今日の仕事は終わりだな。さ、帰って零と話を、しよーっと。



 十二月三十一日。出社したAは早速、課長から検視報告書と鑑識報告書をメールで受け取った。Aはそれらを自分の席で、タブレットパソコンで読んだ。


 死因はやはりサバイバルナイフで左胸を刺されたことによる、出血死。死亡推定時刻は十二月三十日の午後一時から午後二時の間。他殺と思われる。

 鑑識作業を行ったが容疑者につながるような物は、発見されなかった。

 Aは思わず、ため息をついた。年の瀬だっていうのに、ヘビーな事件だ。


 仕方がない。ここは依頼者のJさんに話を聞きに行くか。Jさんは飯山市内のLED電球システムで野菜を作る工場で、働いている。Mさんもそこで働いていたと、メールには書かれていた。

 Aは工場へ向かった。



 その工場に入り用件を伝えると、応接室に案内された。少し待つと、背の高い女性と、小太りの男性が入ってきた。

 そして早速、スマホを取り出してAのスマホに名刺を送ってきた。それによると女性の名前はJ、男性はKだった。Jは被害者Mの上司、KはMの同僚だった。


 スマホを録音モードにして応接室のテーブルに置き、Aは話し始めた。


「まず、Mさんが亡くなった理由だが調査の結果、他殺と考えられた」


 Jは顔色を悪くしつつも、答えた。


「まさかとは思ったんですが、やっぱり……」


 KがJの肩を抱き、フォローした。


「Jさん、しっかり!」

「はい……」


 Aは改めて聞いた。


「どういういきさつで、Mさんの遺体を発見したんだい?」

「はい、昨日はMさんの出勤日でした。それなのにお昼を過ぎても出勤してこなかったので、午後三時頃に工場にある、スマホの位置確認システムで捜しました。

 そしたら河原に反応があったので行ってみると……」

「Mさんの遺体を発見したと?」

「はい……」

「なるほど、これから犯人と思われる人物を捜すので、ご協力を願います。取りあえず、この工場では何を作っているんだい?」


 Jが答えた。


「はい、レタス等の葉物や、ルッコラやバジルといったハーブ類、さらに食べられる花であるエディブルフラワーを中心に作っています」


 Aは聞いた。


「なるほど。で、あんたたちはこの工場で、どんな仕事をしているんだい?」

「はい、成長する野菜の世話をする人間型ロボットを、管理する仕事です」

「なるほど、Mさんの仕事は?」

「はい、Kと一緒に私の仕事を、補佐することです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る