第三十九話

 Fは話し続けた。


「そして私は、Hさんがヒ素を用意し、GさんがIさんのビールにヒ素を入れるという計画を立てました。

 当日、Gさん、Hさん、Iさんがキャンプに行きました。私はIさんがヒ素で死んだとスマホで聞いてからキャンプ場へ行きました。そしてIさんが自殺したように偽装してから、私が110番通報しました……」


 Aは、神妙な面持ちで諭した。


「騙されて大切なお金を失うつらさは、将来のために貯金をしている俺にもよく分かるつもりだ。

 でも、あんたたちはIさんを殺すべきではなかった。警察や弁護士に相談して、Iさんからお金を返してもらうべきだった。更には慰謝料も、ぶんどるべきだった。殺人をいう最悪の手段を取らずに……」


 Fは

「はい……」と答え、うつむいた。



 次の日。Aが出勤すると早速、課長がキレていた。


「A! ふざけんな、てめえ! お前、自動販売機の領収書を偽造しただろ! 何、考えてんだ! また経理課からクレームがきてんだよ!」


 銀縁メガネが良く似合う女性職員の顔を、思い出した出勤したばかりのAは、キレている課長を見てすぐにアパートへ帰った。


   ●


 四月二日。午前五時まで小説を書いていた一柳は、ベットで一時間ほど休んだ。そして午前六時にスマホで、新田へ電話をした。


「もしもし新田さん、起きていますか?」

「えー、ふぁい。今、起きましゅたよ……」

「まだ半分、寝ているようですね……」

「しょんなこと、ありましぇんよ……、で、一体、何の用でしゅか?」

「はい、新田さんに是非、読んでいただきたいものがありまして」


 電話越しでも、新田のテンションが一気に上がるのが分かった。


「読んでもらいたいもの?! 原稿ですか? すぐに行きます!」


 新田は言った通り、五分後に一柳の部屋に入ってきた。


 そして早速、聞いた。


「どこですか?! 読んでもらいたい原稿って!」


 一柳は冷静に答えた。


「いえ、原稿ではありません。ここにプリンターは持ってきていないので。ノートパソコンに短編推理小説を書きました。読んでもらいたいのは、それです」

「分かりました!」と新田は張り切って読み始めた。



 ノートパソコンの画面から目を離した新田は、うなった。


「うーん、これは……」


 一柳は説明した。


「これも夕夏さんが密室状態で発見されたので、アイディアが浮かんで書きました。

 もちろん夕夏さんの死を、冒とくするつもりはありません」

「いや、それは分かりましたが、うーん……」


 一柳は期待を込めて聞いた。


「どうでしょうか? 感想を言ってください、新田さん!」

「分かりました、感想を言います。私は、この短編推理小説もボツだと思います」


 一柳は驚いた。


「ま、また、ボツですか?! 一体、その理由は何ですか?!」

「はい、これにはIが死んでいた建物がテントであるという、重要な伏線がありません。これは本格推理小説ではありません!」


 すると一柳は、ニヤリと笑って言い放った。


「おやおや、電撃社の編集者ともあろう、あなたが気づかなかったんですか?

 新田さん、!」


 新田は目を丸くして驚いた。

「え? それじゃあ、ちゃんと伏線は書いていたんですか?」

「もちろんですよ、私を誰だと思っているんですか? 本格推理小説も書く、一柳凛太郎ですよ!」


 新田は

「分かりました、もう一度、読みます」と、ノートパソコンに目をやった。


 数分後、新田は何なら少しキレていた。


「一柳先生! どこにもそんな伏線はありませんでしたよ!」


 一柳はニヤリと笑い、告げた。


「いや、私は確かに書きましたよ。緑色の建物は、テントだと分かるように」

「でも、確かにありませんでしたよ、そんな伏線は!」

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