第三十八話

 Fは、うつむいた。Aは続けた。


「順を追って説明しよう。昨日、バーベキューパーティーをすることになった、あんたたち四人は、まず河原へ行った。そして体格がいいIさんがテント作りを担当し、女性三人がバーベキューセットを用意して調理する、と考えるのが妥当だろう。


 そしてHさんが自分が働いている工場から持ってきたヒ素を、GさんがIさんにビールを注ぐ時に入れる。それを飲んだIさんが、ヒ素中毒で亡くなる。

 それから、あんたたち三人はIさんが自殺したように見せかけるため、Iさんがテントの中に入るように、テントを移動させた。八畳ほどの広さのテントを移動させるには、もちろん女性一人の力では不可能だが、三人なら可能だろう。


 そしてこれらのことをするには、リーダーが必要だ。三人がバラバラに行動しては、こんなことは出来ない。

 俺は考えた、誰がリーダーか? 答えは一つだ。110番通報し、俺を現場に案内し、更にその場を仕切っていたFさん、あんたしかいないと」


 Fは、あきらめの表情で聞いた。


「どうして、私がリーダーだと思ったんですか?」

「それはあんたが、この事件を仕切っていたように見えた、としか言いようがない。

 Iさんを殺した動機は、もちろん金だろう。あんたたち三人は、Iさんに百万円前後のお金を貸した。でも全然、返してもらえなかった。


 Hさんが言っていたよ。『殺せるものなら私が殺してやりたいですよ、この手で!』と。それを聞いて俺は考えた。

 もしかしたらこの事件はIさんに恨みを持つ、あんたち三人がやったんじゃないかと。


 Hさんにヒ素を用意させ、Gさんがヒ素をIさんに飲ませる。そしてそれをまとめるリーダーがあんた。どうだろう?」


 Fは微笑を浮かべて、話し出した。


「実は私たちは、Iさんのマンションの前で出会ったんです。私はIさんに、お金を返してもらおうと話をするために、そこで待っていました。

 その日にGと出会いました。Gも誰かを待っているようでしたが、その日は会話などはしませんでした。

 でも次の日もIさんのマンションの前でGと会いました。私は話しかけました」



『私はFっていって、このマンションに住んでいる人を待っているんだけど、あなたは何をしているの?』

『私はGっていいます。私も、このマンションに住んでいる人を待っているんです』

『私はIさんっていう人を待っているんですけど、あなたは?』

『え? 私もIを待っているんです!』


 それから二人は、近くの喫茶店で話し込んだ。


『え? じゃあ、GさんもIさんに、お金を貸しているの?』

『え? それじゃあ、Fさんも?』

『何て言って、Iさんはお金を借りたの?』

『えーと、新しい仕事を始めたいから、お金を貸してくれって。そして新しい仕事が軌道に乗ったら結婚しようって、言われて……』


 Fは、うなづいた。


『私も、全く一緒だわ』

『でも、お金を貸した途端に連絡がつかなくなっちゃって。これってある意味、結婚詐欺じゃないかしら?』

『そうかもしれませんね……』

『実は私、もう一人、騙された人を知っているんです』


 Fは真剣な表情で、聞いた。


『え? 誰ですか?』

『実は私の友達のHっていうんですけど、HはIにお金を貸したら連絡が取れなくなったって、私に相談してきたんですよ。

 それで私がIに会って話をしていたら、結局、新しい仕事をするからお金を貸して欲しいっていうことになって……。

 Iってイケメンで結婚もほのめかされたからつい、お金を貸しちゃって……』

『そう……』

『実は私たちはもう、Iを殺そうと思っているの』


 Fは驚いた。


『え? 殺す?!』

『実はHが言っていたの。工場で使っているヒ素で自殺したいって。でも私は止めたわ。

 死ねべきなのは、あなたじゃない。Iよって、言って』

『確かにそうね……』

『で、私とHはキャンプにIを誘って、そこで殺そうと思うの。また私が、お金を貸したいって言えば、ホイホイくると思うの』


 Fは決心した。


『なるほど。ねえ、その計画、私も一緒にやりたいんだけど、いい?』

『もちろんよ。Iに酷いことをされたら、誰だって殺したくなるわよ。でも三人でキャンプに呼んだら、さすがに警戒されるかも……』

『確かにそうね……。じゃあ、こうしたらどうかしら? キャンプに誘うのは、あなたとHさんがやって、私が殺害計画を立てるっていうのは?!』

『なるほど、それは良い考えかも知れないわね!』

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