第三十二話

 岩佐は聞き返した。


「はい? 折り紙の塔って、あの三階建ての塔ですよね?」

「そうです」

「いや、今日、雄輝にドローンの操縦の仕方を教えるためにホテルの外に出た時、折り紙の塔は、ちゃんとありましたよ」

「すると折り紙の塔が動いたという話を聞いても、信じられないと」

「はい、そうですね。動いていないと思います」


 雄輝も口を尖らせた。


「折り紙の塔が動いた? おじさん、何を言っているの?」

「そうだよね、信じられないよね」


 一柳は詫びた。


「お二人ともすみません、変なことを聞いてしまって。それでは私たちはこれで失礼しますので、どうぞ、ごゆっくり」


 一柳は岩佐親子から離れながら、新田に耳打ちをした。


「やはり、当然の反応ですね」

「そうですね」

「次は女子大生の二人に、聞いてみましょう」


 すると新田は提案した。


「あ、それは私が聞きましょうか?」

「え? どうしてですか?」

「いえ。一応、先生も男性ですからね。話を聞きながら二人の連絡先を聞くとか、しちゃったら二人に迷惑ですから!」


 一柳は説明した。


「えーと、私の守備範囲は、二十五歳以上の女性です。

 私が思うに女性は、二十五歳を過ぎてから色気が出てくると思います。ですから女子大生の二人、ついでに新田さんも守備範囲外です。

 また、『女子大生が好き』とか言う人は、ロリコンだと思います」


 新田は突然、一柳の性癖を聞いて戸惑った表情をした。熟女好き、それって軽い熟女好きっていうことですか? 男性って女子高生とか、若い女性が好きなんじゃないんですか?

 そして更に、それなら女子大生に絡むことはないか、と安心したり、また自分も守備範囲外なのか、と軽くショックを受けた複雑な表情をした。


 結局、新田は告げた。


「なら先生に、お任せします。でも分かっていますよね? もし二人に、一人の男性として不適切な対応をしたら……」

「はい、分かっています。どうせ新田さんも隣で話を聞くでしょうから、ちゃんと私を見張っていれば、いいじゃないですか?」

「もちろん、そうします」

「はい、では行きましょう」


 一柳は、まず白石に挨拶をした。


「こんばんは、白石さん」


 白石も椅子に座ったまま振り返り、挨拶を返した。


「あら、こんばんは、一柳さん。どうされたんですか?」

「実は一つ伺いたいことがありまして」

「何でしょうか?」

「はい。もしもこのホテルの隣にある折り紙の塔が動いた、という話を聞いたら、どう思われますか?」


 白石は、少し考えてから答えた。


「へえ、あの塔、折り紙の塔っていうんですか。知りませんでした。

 でも今朝、窓を開けたら、いつも通りにあの塔を見ることが出来たので、動いたという話は信じられないです」

「なるほど。もう一人の方、麻田さんは、どう思われますか?」


 麻田は既にワインを飲み過ぎて、できあがっていた。

 麻田は前髪は左に流していて、髪は肩までの長さだった。そして少し尖ったあごを、していた。


 麻田は、わめいた。


「はあ~? どう思う? 怪しいに決まっているじゃないですか?! 最近の亮平りょうへいは全然、デートをしてくれないんですよ! 仕事が忙しい、今度の日曜日は出張だ、とか言って。

 女ですよ、新しい女ができたに決まっていますよ!」


 一柳は白石に聞いた。


「えーと、つまりこういうことですか? 麻田さんの彼氏の亮平さんは、最近は忙しいと言って全然、麻田さんとデートをしないと。それで麻田さんは、亮平さんに新しい彼女ができたのではないかと疑っていると?」


 白石は頭を下げて答えた。


「はい、そういうことです。すみません、絡んでしまって。あと、折り紙の塔の話ですが、みどりも今朝、開けた窓から塔を見たはずなので多分、信じられない話だ、と言うと思いますよ」

「なるほど、分かりました。ありがとうございました。それでは引き続き、お食事をお楽しみください。あ、麻田さんは、もうお酒は控えた方がいいかと。それでは」

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