第三十一話
衝撃を受けた一柳は数秒間、沈黙した後やっと話し出した。
「それならBがEを殺した動機は何ですか? 私は『なるほど。取りあえず今はEを恨んではいないと』『まあ、そういうことですね』というセリフを書いたんですが」「もちろん動機も、ちゃんとあります」
「え? 一体、どんな動機ですか?」
新田は真剣な表情で、説明した。
「もちろんBはEを憎んでいたからです。こんなセリフがあります。
『そしてEの気を引くためにプレゼントもしましたよ。高価な腕時計をね。でも結局、付き合うことは出来ませんでした。その時は殺してやろうかと思うほど怒りが湧きましたよ。一生懸命にアルバイトをしたお金で買った高価な腕時計をプレゼントしたのに、付き合えなかったんですから』と」
「それが、どうかしましたか?」
「はい、そしてこんな描写もあります。Eの遺体の描写ですが『そして左の手首に高価そうな腕時計をしていた』と。つまり、こうは考えられませんか?
キャンプに行ったBは、Eが自分がプレゼントした高価な腕時計をしているのを見て、殺してやろうかと思うほどの怒りが再び湧きあがったと」
「うーむ」と、うなった後、一柳は続けた。
「ですがBに犯行は不可能です。こんなセリフがあります。『Bはキャンプで肉や野菜を焼く作業をしていた。食品用ラップフィルムを手に入れる隙がない』と。
これは、どう説明しますか?」
「はい、説明できます。それは一柳先生がミスをしたんです」
「ミス? 私が?」
「はい。確かにBはキャンプで肉や野菜を焼く作業をしました。でもそれはバーベキューをしていた時のことです」
一柳も気づいた。
「はっ、そうか!」
「そうです。つまり、バーベキューが終わったら何をしたか? こういう描写があります。
『ちょうどその頃、僕とCとDの3人でバーベキューの後片付けをしていたんですが、Eがいないことに気づいて……』と。
つまり後片付けをしていたBにも、食品用ラップフィルムを手に入れるチャンスがあったと思われます。ついでにEが殺されたのも、キャンプが終わって後片付けをしている時です。
おそらくBも考えたんでしょう。サバイバルナイフで肉や野菜を切るDを見て。
上手くやればDに罪をなすり付けることが出来るのではないかと。どうですか、矛盾は無いと思いますが?」
一柳は心の底から思った。新田鈴乃……、末恐ろしい子! そして一柳の、そこそこのプライドが、そこそこメラメラと燃えた。
しかし新田は提案した。
「先生、そろそろ夕食に行きませんか? 今日は、ちゃんとレストランで食べましょうよ!」
「はい、確かに、お腹が減りましたね。それじゃあ、レストランへ行きましょうか?」と一柳の、そこそこ燃えたプライドは、あっさりと消火された。
一柳と新田はレストランでフルコースを食べた。新田は満足そうに感想を告げた。
「やっぱりすごく美味しかったですね。昨日の夜に残り物を食べて思ったんですよ、このレストランは間違いないと。いやー、満足しましたー!」
一柳は
「確かに、すごく美味しかったですね」と答えて周りを見回した。レストランには一柳と新田の他に、岩佐親子と麻田、白石の女子大生コンビがいた。
一柳は告げた。
「ちょっと彼らに、話を聞いてみたいですね」
「何の話ですか?」
「はい、折り紙の塔が動いたことについて、どう思うか、です。私の中ではすでに一つの仮説が浮かんでいるんですが、やはり他の人の意見も聞きたいですから」
「なるほど」
早速、一柳と新田は、岩佐親子がついているテーブルに近づいて、挨拶をした。
「こんばんは、岩佐さんに雄輝君」
「あ、こんばんは。一柳さん」
「こんばんは、おじさん」
一柳は褒めた。
「偉いですね、雄輝君。ちゃんと挨拶ができて」
「だから僕を子ども扱いしないでよ。僕は、もう四年生だって言ったじゃん!」
「あ、そうでしたね。すみません」
すると岩佐が、たしなめた。
「こら、雄輝! そんな口の利き方をするもんじゃない!」
「はーい……」
一柳は聞いた。
「すみません、私の言い方も悪かったもので。ところで岩佐さん、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「このホテルの隣にある折り紙の塔が、動いたと聞いたら、どう思いますか?」
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