第二十六話
Aは取りあえず聞くべきことは聞いた、後は検案と鑑識作業待ちだな、と思いバーベキューセットを見た。
高さ一メートルほどのバーベキューコンロと、その隣には、やはり高さ一メートルほどの作業台があった。バーベキューコンロは掃除したのだろう、結構きれいになっていた。しかし作業台には肉が入ったパック、食品用ラップフィルムで巻かれた野菜、ノンアルコールビール等が、まだ置かれたままになっていた。
いかにも、さっきまでバーベキューをしていました、という感じだった。
と、考えていると河原に、警察車両が到着した。それから降りた医師と鑑識官に、Aは伝えた。
「遺体があるのは、あのテントです。検案と鑑識作業を、お願いします」
医師と三人の鑑識官は、うなづくとテントに向かった。Aも彼らについて行った。
医師は、すぐに判断した。
「これは間違いなく異常死ですね。検視の必要があります。
また、飯山警察署鑑識課の課長さんに検視を依頼しましょう」とスマホを取り出し、電話を掛けた。
鑑識課の課長は検視も出来る、仕事が出来る人物だった。
全く、いつも怒鳴ってばかりの、うちの課長とは大違いだな、と思いつつAはパトカーに乗って飯山警察署を目指した。
鑑識課に行くと、いつも柔和な表情をした鑑識課の課長がいた。
Aは軽く挨拶をした。
「よ、課長! お久しぶりっす! 事件が起きないと課長に会えないなんて寂しいっすよ~」
「何、言ってんだい。いつも刑事課の課長に可愛がられているくせに。あいつは俺と同期なんだが、あいつほど仕事熱心で部下思いの課長を俺は知らんよ」
Aはすぐに、反論した。
「ここに、いるじゃないっすか~。仕事熱心で部下思いの課長が。
あ~、俺も鑑識課に異動願いを出そうかな~」
鑑識課の課長は、自嘲して答えた。
「ダメダメ、俺なんて。いつも波風を立てないようにしているだけだから。それに比べて、あいつはすごいぜ。部下のために公然と署長を批判するんだからな。あんな課長、他にはいねえよ!」
Aは驚いた。
「へえ、うちの課長、そんなことをするんすか? 聞いたこと無いっすよ……」
「ま、あいつは、そういうことを言いふらす奴じゃねえからなあ……」
「ふーん、まあ、いいっす。それよりもまた異常死っす。検視を頼むっす」
「ああ、任せておけ!」
鑑識課を出たAは、つぶやいた。
「さてと、俺の今日の仕事はこれで終わりだな。コンビニに寄って夕食の弁当でも買うか。
ちゃんと領収書を、もらっておこう。これは仕事中の食事ってことで、弁当代は経費で落としてもらおう」
そしてAは自転車に乗りコンビニで弁当等を買い、自宅アパートに帰った。弁当を食べると早速、スマホのゲームを始めた。
だが一時間して、つぶやいた。
「やれやれ、このゲームも潮時か……。寝かせておくとするか……」
潮時とはスマホのゲームを一時、やめることだ。スマホのゲームは序盤は課金をしなくても進めるが、序盤を過ぎる頃になると難しくなる傾向がある。そういう時は課金して、つまりお金を払って強力なアイテム等を手に入れなければならない。
そうなるとスマホのゲームで課金したくないAは、寝かせておくことにしていた。
ある時がくるまで、そのゲームをしないのである。ある時とは、いつか?
それはテレビのCM等で告知される『無料ガチャ』が行われる時だ。
『無料ガチャ』とは、その名の通り、タダでスマホのゲームでガチャガチャが出来ることである。ゲームによっては十回や百回、出来ることがある。ガチャガチャをした結果、強力なアイテム等を手に入れることが出来る。
それでAは『無料ガチャ』が出来るようになると、それをやった。そして強力なアイテム等を手に入れてゲームを進めることが出来るようになると、ゲームを再開させた。
そんなことをしているため、Aのスマホには大体、十数個のスマホのゲームが入っていた。
「ま、このゲームもそのうち、『無料ガチャ』をやるだろう。それまでは別のゲームをやろうっと」とAは、別のスマホのゲームを始めた。
次の日。Aはスマホのアラームで、午前七時に起きた。そして昨日、コンビニで弁当と一緒に買ったサンドイッチを食べ、野菜ジュースを飲んだ。更に電子タバコで一服すると、スマホのゲームの続きをした。
Aはすっかり昨日の夜にやった、スマホのゲームにハマっていた。出勤するまでには少し時間があるので、少しだけゲームをやろうと思った。
だが、ついゲームにハマり気づいたら、午前七時四十五分になっていた。Aは焦った。Aのアパートから飯山警察署までは、自転車で二十分かかるからだ。
Aは、もしも自転車のスピード違反の取り締まりをしていたら、確実に捕まったであろう猛スピードで飯山警察署へ向かった。そして午前八時の一分前に出勤した。
Aは自分の席で勝ち誇った。
「やったぜ、今日も何とか、遅刻しなかったぜ!」
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