第二十五話

 課長は頭を抱えたまま、続けた。


「ケチで仕事をすぐにサボり、おまけに中二病の三重苦……。

 お前なんか鋭すぎる推理力が無かったら、とっくの昔にクビにしている!」


 Aは力なく、答えた。


「でも、その鋭すぎる推理力は、このブラック・ドラゴンの能力のおかげなん……」


 ついに課長はキレた。


「とにかく、さっさと現場に行けー!」

「はいー!」とAは刑事課を飛び出した。



 現場に着きパトカーから降りたAは、両手に白い手袋をして早速、通報があった場所へ向かった。

 そこは飯山市内にある、河原だった。キャンプをしているのだろう、よく見かける三角型のテント、半円筒形のテント、そして平らな屋根で緑色の布製の壁まであるテントもあった。それは立派に、建物に見えた。

 そしてテントの横にはもれなく、バーベキューセットがあった。


 Aは三人の男性が三角型のテントの前で、途方に暮れているのを見かけた。

 きっとあそこだな、と見当をつけて三人のそばまで寄ると、警察手帳を見せて聞いた。


「飯山警察署のAだ。事件があったというのは、ここか?」


 すると長身の男性が答えた。


「はい、そうです。110番通報したのは僕です」

「ふーん、君の名前は?」

「はい、僕はBっていいます。よろしくお願いします」とBは頭を下げた。


 Aは更に聞いた。


「まだ二人いるな。彼らの名前も教えてくれないか?」


「はい」とBは二人を紹介した。


「そこにいる太った男がCです。そして、そっちの背が低い男がDです」


 CとDは、そろって頭を下げた。


 Aは改めて聞いた。


「ここで事件が起きたと聞いたんだが、被害者はどこだ?」


 Bが指差し、答えた。


「はい、そのテントの中にいる、Eです……」


「ちょっと拝見」とAは、三角型のテントの中に入った。


 そこには右胸にサバイバルナイフが刺さったままの女性が、仰向けに倒れていた。 

 Aは被害者に手を合わせると、ざっと観察をした。

 死因はおそらく右胸をサバイバルナイフで刺されたことによる、出血死。Eのシャツは血まみれだった。他に外傷も見当たらないし、出血死で決まりか。

 顔を見ると苦しそうな表情をしているが、生きている時は相当な美人だったのではないか、と思わせた。そして左手首に高価そうな腕時計をしていた。


 Aはスマホを取り出し、電話をした。


「もしもし、Aです。お疲れ様です。遺体の検案と、現場の鑑識作業を行って欲しいんですが……。はい、はい。よろしくお願いします」


 電話を切ると、Aはテントを出た。そして聞いた。


「Eさんが殺された時間は、見当がつくか?」


 Bが答えた。


「午後二時くらい、だったと思います。ちょうどその頃、僕とCとDの三人でバーベキューの後片付けをしていたんですが、Eがいないことに気づいて……。

 それで三人で捜したらCがテントの中でEの遺体を……」


 Aはメモ帳を取り出しメモをしながら、Cに聞いた。


「その時の状況を、詳しく教えてくれ」

「はい、取りあえずバーベキューセットの周りには見当たらなかったので、ひょっとしたらテントの中にいるのかな、と思って見てみたらEが倒れていました……」

「なるほど。それから?」

「はい、急いでBとDを呼びました。そしたらBが左手で、Eの脈を確認して告げました。『ダメだ。もう死んでいる』と……」


 AはBに確認した。


「本当か?」

「はい、その時すでに脈が無くて、もう死んでいると思いました……」

「なるほど……」


 Aは更にCに聞いた。


「遺体に触ったのは、その時だけか?」

「はい、そうです。そうだよな?」


 BとDは、うなづいた。


「ふむ、なるほど。それと遺体を発見してから、このテントの中の物を触ったりしたか?」


 Cが答えた。


「いえ、触っていません。それというのも、Bが言ったからです。『Eは殺された可能性がある。現場保存のために、テントの中の物は触るな!』と」


 Aは取りあえず、褒めた。


「ふむ、的確な判断だな」

「はい、僕は刑事ドラマが好きでよく見るんですけど、ドラマを見ていると、よくあるシーンなので」

「なるほど」と、うなづき、B、C、Dから連絡先を聞いた。

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