第二十七話
だが課長は、何も言わなかった。Aは刑事課に配属された当日から、八時ギリギリで出勤してきた。
課長は初めのうちは
「もっと時間に余裕をもって出勤しろ」と諭したがAは、それでもギリギリに出勤してきた。
いつも八時ギリギリに出勤するが取りあえず遅刻はしなかったので、まあ、いいか、という表情で課長は、そのことに関しては何も言わなくなった。
そして今朝は課長はAが出勤すると、すぐに呼んだ。
「おい、A。ちょっと、こい」
Aは課長のデスクの前に行き、聞いた。
「何すか、課長?」
「昨日の検視報告書と鑑識報告書がきたぞ。これだ」と二枚の書類を渡された。
Aは取りあえず、検視報告書を見た。それによるとEの死因は、やはり右胸をサバイバルナイフで刺されたことによる、出血死だった。死亡推定時刻は昨日の午後一時半から午後二時半。
それは予想通りだったので別に驚かなかったが、鑑識報告書を見た時は、さすがに驚いた。
そして宣言した。
「課長、安心してくださいっす。事件は、もう解決したっす!」
課長は、今はAに良いスイッチが入っていて安心だな、という表情をした。
はっきり言って、Aにはムラがあった。捜査する事件が無い時は、セコイことを考えて貯金をしようとしたり、喫煙室に入り浸り電子タバコを吸いまくっていた。
しかし、ひとたび捜査しなければならない事件が発生し、命令を下し捜査させるとAは、その鋭すぎる推理力を発揮した。そして、これまで幾つもの難事件を解決してきた。
Aは飯山警察署の取り調べ室に、スマホで電話をしてDを呼び出した。そして可視化するためのビデオカメラをセットしてから、迫った。
「Eを殺したのはD、お前だな!」
Dは驚きながらも、反論した。
「いいえ、僕は殺していません!」
Aは、鑑識報告書を見ながら再び迫った。
「Eの右胸に刺さっていたサバイバルナイフの柄から、D、お前の右手の指紋が検出された。
はっきり言おう、お前の右手の指紋しか検出されなかった。言い逃れはできないぞ!」
Dは弁解した。
「確かに、あのサバイバルナイフは僕の物で、しかも昨日はバーベキューの材料を切る時に使ったんです。だから僕の指紋しか付いてないのは当然です!」
「なるほど。じゃあ、質問を変えよう。お前たち四人は、どういう関係なんだ?」
「僕たちは大学のアウトドアサークルの一員です。僕たち四人は今、三年生で来年になったら本格的に就職活動で忙しくなります。
なので思い出作りも兼ねて、最後のキャンプに行こうっていうことになったんです」
Aは、メモを取りながら聞いた。
「なるほど。で、被害者のEの交友関係は知っているか?」
するとDは、うつむき黙り込んだ。
Aは告げた。
「おいおい、ここで黙り込んじまうと、ますますお前が怪しく見えるぞ」
その言葉を聞くと、Dは『はあ』と、ため息をついて話し出した。
「僕とBとCは、Eに憧れていました。あれだけの美人ですからね。するとEはいう訳ですよ。『あの時計が欲しい、あの指輪が欲しい、あのバックが欲しい』と。
すると僕らはアルバイトをして、それらをEにプレゼントする訳ですよ。でもEは『ありがとう。これ、もらっておくわね』って言ってほほ笑むだけで、付き合うことは出来ないんですよ。
僕が知っている限り、BもCも同じことをしていました」
Aは、うなづきながら聞いた。
「なるほど。Eを殺す動機は全員にあった、と言いたいのか?」
「はい、そういうことになります」
「ちなみに、お前は何をEにプレゼントしたんだ?」
「はい、僕はバックをプレゼントしました」
「なるほど、だがな……」とAは前のめりになり、聞いた。
「Eの右胸に刺さっていた、サバイバルナイフにはお前の指紋しかなかった。これはどう説明する気だ?!」
Dは言いよどんだ。
「そ、それは……」
その表情を見て、Aは思った。こいつは、もしかするとEを殺していないかもしれない、と。
だからDの取り調べが終わった後、Bを呼んだ。
Bのテンションは取り調べ室に入ると、一気に上がった。
「ここが取り調べ室ですか! うわー、テレビドラマで見た通りの机と椅子!
そして可視化するためのビデオカメラ! うわー、感動だなー!」
AはBのテンションに少し呆れたが、取りあえず椅子に座らせた。
そして聞いた。
「単刀直入に聞こう。お前はEのことを、どう思っていた?」
「そりゃあ、憧れていましたよ。美人ですからね。そしてEの気を引くために、プレゼントもしましたよ。高価な腕時計をね。でも結局、付き合うことは出来ませんでした。
その時は殺してやろうかと思うほど、怒りが湧きましたよ。一生懸命、アルバイトをしたお金で買った高価な腕時計をプレゼントしたのに、付き合えなかったんですからね。
でも思いましたよ。この女に深く関わっちゃいけない、こいつは男を利用することしか考えていないってね」
「なるほど。取りあえず今はEを、恨んではいないと?」
「まあ、そういうことですね」
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