第十八話
と、一柳が考え込んでいると、ドアの付近が騒がしくなった。見ていると二人の男性が部屋の中に入ってきた。
そのうち一人は警察手帳を見せ
「私は長野県警の
その男性は、頭を下げた。
「永瀬です。よろしくお願いします」
押谷は白髪交じりの髪で、えらが張っていた。そして聞いた。
「110番通報をされた野上善朗さんは、どちらですか?」と一柳と野上の顔を交互に見た。
「僕です……」と野上は、小さな声で右手を少し上げながら答えた。
押谷は聞いた。
「では110番通報をするに至った経緯を、説明していただけますか?」
野上は三人で、この部屋にきたが鍵が掛かっていたためホテルのフロントから予備のキーを持ってきて開け、死体を発見したと説明した。
押谷は
「うーむ」と唸った後に言った。
「残念ですが奥様は、自殺をなされたかも知れません」
野上は驚いた。
「え? 自殺ですか?!」
「はい、死体を見る限りは自殺でしょう。念のため、長野県警で死因と死亡推定時刻を割り出しますが……。永瀬君、県警本部に連絡してくれ」
永瀬は
「はい」と返事をするとポケットからスマホを取り出して、電話をし始めた。すると押谷は、一柳と新田の顔を交互に見て聞いた。
「で、あなたたちは一体、何者ですか?」
一柳は答えた。
「私は一柳、こちらの女性は新田。このホテルの宿泊客です」
「なるほど。で、なぜここへ?」
「はい、実は……」と、この折り紙の塔が動いたので、その理由を調べにきたと説明した。
押谷は、目を丸くして驚いた。
「この塔が動いた?! そんなバカな?!」
「はい、でも動いたのは事実だと思います。それで我々は、ここに調べにきました」
押谷は
「うーむ」と唸った後、取りあえずそれは夕夏さんが自殺した件とは関係なさそうだな、という、さっぱりとした表情で言った。
「そのことについて調べるのは構いませんが、一応この部屋を鑑識さんたちに調べてもらいます。調べるのは、その後にして欲しいと思います」
ま、それはしょうがないな、と思い一柳は
「はい」と返事をした。
すると押谷は、メモ帳を取り出した。
「一応、お二人のご職業を伺っておきましょうか」
一柳は答えた。
「はい、私は小説家です。新田は電撃社の編集者です」
電話が終わった永瀬が、聞いて驚いた。
「え? 小説家? すみませんが、お名前は?」
「はい、一柳凛太郎です」
永瀬は、更に驚いた表情で告げた。
「あの一柳凛太郎先生ですか?! どうりで、どこかで見た顔だと思ったんですよ!
僕は先生が書かれた『警視庁の宝 高良警部』シリーズの大ファンなんですよ!」
永瀬は髪は七三分けで、あごは出ていなかった。
押谷は、口をはさんだ。
「一柳凛太郎? 『警視庁の宝 高良警部』シリーズ? 聞いたことないなあ」
すると永瀬は、フォローした。
「まあ、一柳先生は有名というよりは、推理小説については知る人ぞ知る本格推理小説家と言った方が良いですからね。
確かにファンの数は少ないですが一度ファンになったら、もう先生の作品の虜ですよ」
押谷は、興味が無いようだった。
「ふーん」
一柳は、この場面でどういう表情をしたものか、と少し考えた挙句、取りあえず愛想笑いをした。
すると永瀬はメモ帳を取り出し、聞いた。
「すみません先生、後でこれにサインを頂けますでしょうか?」
一柳は答えた。
「はい、もちろん。何なら今でも構いませんよ」
永瀬はメモ帳とボールペンを、一柳に差し出した。
「本当ですか?! では申し訳ないんですが今、お願いします!」
一柳は、それらを受けとると、手慣れた手つきでサラサラとサインをした。
それを受け取った永瀬は、喜んだ。
「ありがとうございます! 一生の宝にします!」
一柳も
「うんうん」と、うなづいた。
それらを見た押谷は
「じゃあ、お二人の職業も分かったことですし、もう帰ってもらっても結構ですよ」と二人に帰ってもらおうとしたが、一柳は告げた。
「押谷警部、あなたは、これを自殺と考えているようですが、他殺も視野に入れた方がいいと思いますよ」
「え? どういうことですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます