第二話

 私はテレビのリモコンを手に取ると、電源を入れた。テレビではちょうど、ニュースをやっていた。

「……では次のニュースです。今朝、七時頃、K区の路上で女性の遺体が発見されました。

 警察によると亡くなったのは都内の女子高に通う、土村愛海つちむらまなみさん、十六歳です。衣服が乱れており、首にめられたあとがあることから殺人事件として捜査しているとのことです」


 そして同時に被害者の顔写真が映し出された。おそらく中学の卒業アルバムの写真だろう。


 井口君は感想をらした。

「あーあ、女子高生かー。まだ若いのに……」


 私も、ため息交いきまじりに言った。

「そうだね。まだまだ、これからだろうに……」


 そして私は立ち上がった。

「それじゃあ、仕事に戻ろうかな」

「あれ、もう休憩きゅうけいは、いいんですか?」

「ああ、ちょっとアイディアが浮かんでね」

「それじゃあ、がんばってください」


「ああ」と私は自分の部屋へ戻った。デスクトップパソコンの前に座ると私はうつむき、両手を強くにぎりしめた。



 三時間後。私は更に五枚の原稿を書き、印刷した。それを持ってリビングへ行き、井口君に渡した。ちょうどいい温度になったからか、井口君は長袖のシャツを脱いでいた。左腕には絆創膏ばんそうこうってあった。


 「井口君、原稿は出来たよ。それともう三時過ぎだ。私は昼食を取らせてもらうよ」

「はい、では原稿を拝見はいけんします。あ、市村先生、タバコを吸いながら読んでもいいですか?」

「ああ、構わんよ。いつもの灰皿は、テーブルの上にあるだろう?」


 井口君は

「はい、では遠慮えんりょなく」とタバコを吸いながら、原稿を読み始めた。


 私は冷蔵庫からキャベツ、ニンジン、豚肉を取り出してフライパンで炒めて、肉入り野菜炒めを作った。そして井口君に聞いてみた。

「君も食べるかい?」


 井口君は、原稿をカバンに入れながら答えた。

「いえ、いつも通り会社に戻る途中で食べていきます。それよりも良い原稿ですよ、今回は、これで行きましょう!」

「ああ、そうしてくれ」

「ああ、市村先生、短編はこれで良いんですが長編の推理小説は、どうなっていますか? ちゃんと進んでいますか?」


 私は少し考えてから、答えた。

「ああ、まあね。トリックも、あらすじもすでに出来ていて、今は二十パーセントくらい、出来ているかなあ……」

「そうですか。では今度は、それをチェックしにきますから、お願いします」


 私は笑顔で答えた。

「ああ、分かったよ」

「それでは今日は、これで失礼します。お疲れさまでした」


「はい、お疲れさん」と井口君が帰ると私は、遅い昼食を取った。食後にタバコを一本吸うと私は、スマホを手に取った。


 私は

「ええと、スマホの電話帳には無いか……。と、なると……」と、つぶやくと部屋へ行き机の引き出しから、名刺めいし入れを出した。目当ての人物の名刺を探し当てると早速、電話をした。

『はい、こちら警視庁・科学捜査研究所です』

『私は市村 健吾けんごと申しますが、永山優也ながやまゆうや研究主任は、いらっしゃいますか?』


 少し戸惑とまどった声で、電話の相手は答えた。

『ええと、永山ですか? 少々お待ちください』と、電話の保留音ほりゅうおんが流れた。少しすると聞きおぼえがある声がした。

『はい、永山ですが?』


 私は聞いた。

『永山か? 俺は市村健吾だ。憶えているか?』

『市村か? 久しぶりだな。高校の同窓会以来か?』

『そうだ。二十年くらいか』

『でさあ、取りあえず研究主任はやめてくれよ。今は研究員副主幹なんだ。受付の女の子が戸惑っていたぞ』


 私はびた。

『悪い、出世したのか。名刺の肩書も二十年前だからな』

『そういうことだ。で、何の用だ? 急に?』

『ああ、それなんだが今日、女子高生が殺されて見つかったっていうニュースが流れたろう?』


 永山は普通に答えた。

『ああ、部下が担当しているよ』

『本当か?! なあ、どんなことが分かったんだ?!』

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