第4話 誘拐
二人は『レミーの雑貨店』の扉を開けて中に入る。目的はティナの義肢を動かすための魔石であった。
「いらっしゃーい」
すると、奥から店主のレミーが顔を覗かせる。
「どうも。実は純度5以上の魔石を探していまして。取り扱いは?」
「あるわよ。そこの棚を見てちょうだい。決まったらベルを鳴らしてね」
と、言ってレミーは再び奥へ引っ込んだ。
「あの店長は狙わない方がいいな」
「そうだね」
殺し屋として研ぎ澄まされた感覚が、レミーを手を出してはならない存在として認識する。
「盗むのも無しにするか」
「それは常識でしょ?」
盗るつもりだったのか、と兄を諌める。
サノは、冗談だよ、と端から見れば仲の良い様を感じ取れる普通の兄妹だった。
「とりあえず、これでいいか。ついでに何か買っとくか?」
棚にある魔石を幾つか物色し、他にも物入りな物が無いかを確認する。
すると、ティナはアクセサリーを見ていた。
「欲しいのか?」
「いや……全部終わってからでいいよ」
「ごめんなさいね~」
すると、奥からレミーが出てきた。
『鬼族』の体格は改めて見ると相当な迫力がある。しかも、それだけではなくレミー、本来の実力も一線を画するモノであると兄妹は理解する。
「これを下さい」
「全部で銀貨10枚よ~」
「銀貨10枚? 値段表では……15枚は越えると……」
「そっちの娘は義肢でしょ~。歩き方と手の動きで解るわ」
ティナは長袖に手袋をしていたが、レミーからすれば義肢であることは丸わかりだった。
「貴方の仮面も事情があると思うし、何よりまだまだ若い貴方たちからは銀貨10枚が妥当だと思ったの」
レミーの言葉や表情は永く忘れていた大人からの心遣いを感じ取れるモノだった。
「『暗黒街』ってのは……貴方みたいな人ばかりですか?」
「そんなわけないでしょ~。アタシも傷アリな身だから、共感しやすいってだけ。他のお客さんなら倍は吹っ掛けてるわ♪」
冗談混じりに、バチンッ! とウィンクするレミーにサノも笑顔になる。
「レミー……」
サノが銀貨を取り出していると、奥から蒼髪の美少女が現れた。
思わず銀貨を取る手が止まる。
「これ……動きづらい……」
彼女はゴシック風の服を着ており、それがなんの違和感もなくマッチしてるからこそ、完璧な美少女に見える。
「やっぱり、合うわ~」
「て、店長さん! 彼女は?!」
ティナは珍しく狼狽える兄に、へー、と笑みを浮かべる。
「私は……ブルー……特技は……料理……洗濯……子守り……」
「ブルー……素敵な名前だ……」
兄の反応にティナは口を押さえて笑い声をおし殺す。
「この子もお客さんよ。でも狙うなら道は険しいわよ~」
レミーもブルーの容姿が標準を遥かに越えると理解している。故にその言葉は完全な人避けになると思っていた。
「ブルーちゃんは、クティの所にいる子だからね」
「クティ? 誰ですか、そいつ! お父さん?!」
必死な兄の様子がツボに入ったのかティナは床を叩いて笑う。
「クティノスよ。クティノス。『暗黒街』に出入りするなら一度は聞いた事あるでしょう?」
その言葉は、サノの舞い上がっていた頭は一気に冷却され、ティナは笑い声を止めた。
すると、間髪入れずに店の通信用の魔道具が鳴る。
レミーは二人に断ってから魔道具へ向かった。
「……君はクティノスを知ってるのか?」
「……うん……彼に会いに来た」
「彼……か。じゃあ、協力してくれないか?」
サノはブルーに手を翳す。
「ごめんなさいね~。……あれ?」
レミーが通話を終えて戻るとそこには10枚の銀貨だけが置かれ、
数年前、今は地図から消えた村で大規模な儀式が行われた。
喚び出されたのは悪魔。その悪魔は人の形をしておらず、ヒマワリの様な植物で、巨大な眼に花びらが咲いている姿をしていた。
村の供物の中で唯一適正のあったサノだけが悪魔を見上げる。
我に何を望む?
頭の中に直接語りかけてくる。
「俺の命は要らない……ティナを……生き返らせてくれ」
その時だった。一人のエルフの老婆が割り込み、悪魔を霧散させた。
「……手遅れだったか」
そのエルフはサノが悪魔と魂の契約を交わした事に歯噛みする。
しかし、サノは腕の中で死んでいた妹が生き返った事にただ喜んでいた。
「あんたら、ロクな生き方は出来ないよ」
その後、状況が落ち着いた後にエルフは身寄りのない二人をしばらく世話していた。
「特にサノ。あんたは魂が縛られてる。死ぬまで悪魔に貢ぎ物を捧げ続けなきゃならない」
「貢ぎ物?」
「人の死だ。その身をもって人を殺さなきゃならない。そして汚れていく魂を悪魔がとって代わり、奴らは地上に受肉する」
彼女は世界中を回って、そうやって地上に現れようとする悪魔を事前に排除して回っていると言う。
「どうにかして兄さんを助けられないのですか?」
「いいんだ、ティナ。俺はお前が生きてさえいれば……」
既に自分の事を諦めたサノは四肢を失ったティナの事を彼女に託そうと――
「一つだけ方法がある」
彼女はその条件を告げた。
「金を集めな。そうすればエルフの長老衆が動いてくれるかもしれない」
「お金……ずいぶんと俗っぽいですね」
「別に金品が欲しい訳じゃないんだよ。その者にとって何が苦難なのかを長老衆は見るんだ。無一文で身寄りのないあんたらにとっては金銭の稼ぎが一番共感を得られるだろう」
話しは通しておくよ。目標額を達成したらアタシを捜しな。
と言って彼女は最低限の物だけを揃えて兄妹と別れた。
「……一番適しているのは殺し屋だ」
「わたしは兄さんについていく」
「俺が殺す。お前は誰も殺すな」
「ううん。わたしも命を抱えるよ。兄さんを一人にはしないから」
そして、血に塗られた兄妹の旅が始まった。
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