15 青か、黒か
航と中野が、戸隠高原エイドステーションを出発してから二時間三十分が経過した。ゴール会場の飯綱高原スキー場は、幻想的な朝を迎えている。
二人が出発した後、天候は急変し、どしゃ降りの雨に見舞われた。
コース上の複数箇所が冠水し、走行困難であるとの報せが大会本部に入ると、速やかにレース短縮の決定が下された。
レース続行中の選手は、次に到着するエイドが、その選手のゴールになると言う決断に至ったのだ。
この決定が下されたとき、戸隠高原を出発していたのは中野と航だけだった。
必然的に優勝争いは、この二人に絞られる。
雨は一時間以上降り続き、やがて上がると、深い霧が立ち込めてきた。
ゴールゲートは、特設ステージの上に設えてあり、選手が走ってくる方向を眺めると、綺麗に芝が刈り揃えられた数100メートルのゲレンデと、特設ステージへ駆け上がる真っ赤なスロープが見渡せる。
ゲレンデには朝霧が掛かっており、選手の姿が霧の中から現れるのは、ゴールゲートから100メールくらい先の辺りだろうか。
午前五時二十分、空が白み始め、漆黒の闇から明るさが戻ってきた。
そこには鳥の囀りと、大会関係者が声を潜めて話す声が時折聞えるだけで、静けさが漂っている。
昨晩の天候の影響で、各選手のアシスタントやペーサー、それに大会スタッフはその後の対応に追われ、ゴール地点にいる人の数は多くない。
この場にいる者全てが固唾を飲んで二人の到着を待っていた。
爽夏は特設ステージの片隅に立ち、両手を組んで霧の中へ目を凝らす。
隣に立つ諏訪は、いずれにしてもハングルースのワン・ツーフィニッシュになるので、どちらが勝つのかを単純に楽しんでいる様子だ。
ひとときの静寂を打ち破るように、霧の彼方から鈴の音が響いてきた。
ステージから見て左前方から響いてきた鈴の音は、徐々に右へと移動し、やがて少しづつその存在感を大きくしてきた。
航はスカイブルー、中野はブラック。
いずれもチームユニフォームを着用している。
霧の中から姿を現すのは青か、黒か、会場にいる全ての視線が一点に集中した。
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