13 航への手紙

スタートまで、あとどれくらい時間はあるのだろうか?

覚悟は出来たか?


会場は、多くの人で盛り上がっているのだろうな。

その場で、一緒に興奮を味わえないのが、無念だ。


この手紙が読まれているとき、僕はもうこの世にいないかもしれない。

だから、今の思いを伝えておく。


航と出会ってからの一年で、僕の人生は大きく変わった。

諦めてきたものが大きすぎて、希望を見出す事が出来ず、明日の訪れを信じずに、生きてきた僕が、明日が待ち遠しくて、たまらなくなったのは、君のせいだ。


僕は、君から生きることの、楽しさを教えられた。

お陰で、僕の記憶に刻まれた思い出は、たくさんの笑顔で溢れている。


焚き火に映し出された、大町さんの笑顔。

満面の笑顔でカレーを盛りつける、カントリーハウスのマスター。

いきなり腕を組んできて、悪戯っぽい視線を投げかける泉さん。

航と爽夏の笑顔は、見飽きるほど見てきた。

孤独な僕は、いつもその笑顔に癒されていたんだ。

君たちとこの先、何年も、何十年も友達でいられると思っていたよ。


青く澄んだ芦ノ湖

風を感じながら進むカヤック

湖上で飲んだモーニングコーヒー

笹ヶ峰で食べたトウモロコシ

楽しい思い出は、数えだしたら、切りが無い。

航と知り合えて、本当に良かった。


僕は今、死の淵に立っている。

でも命ある限り、明日を信じて生きる。

航の足音を聞きながら、走りたいから。

航と爽夏が、抱き合って喜ぶ姿を見たいから。

それから、航ともう一度勝負したい。

だから、最後まで諦めないよ。


航、自分を信じて走れ。

苦しくなったら、爽夏が手を差し出してくれる。

次の一歩を踏み出す事が出来なくなったら、僕が背中を押す。

欲しがっているものを、必ずその手で掴んでくれ。


いつかまた会える日を楽しみにしている。

さようなら、航。

ありがとう、航。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る